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「はあ、はあ。神よ、救いたまえ……」 「俺は宗教とかには興味ないけど、人間が原罪を背負ってることだけは信じてるよ」  武司は息を切らしながら、「原罪は、主が、背負ってるんだぞ」 「じゃあなんでおまえはそんなに罪深いんだ」 「主の負担を担ったんだ! 半分くらい!」 「半分って……」  うずくまった原罪背負いし背中をさする。すると、武司の口からお手本のような軌道を描き、ぼたぼたとが抽出された。  酒にめっぽう強い俺は、退屈しのぎがてら、苦しむ武司の写真を撮ることにした。 「まだ出すのか。悪魔みたいな体勢だな」 「お、おい。恥ずかしい、おえぇ」 「おお。エクソシストでこんなシーンあった」 「おまえは酒強くていいな。お、吐いたらすっきりした」  武司は暗がりにうっすらと浮かぶ吐瀉物のシルエットに軽蔑の視線を送り、犬のように足で砂をかける。ベンチ横の水道で口をゆすぎ、大きくため息をついた。 「吐くってわかってるのに飲んじゃうんだな、これが」 「あほだな」  けらけら笑う武司に意趣返しするつもりで、俺は先ほどの画像を見せることにした。 「これを脳裏に焼き付けとけば少しは自制が効くんじゃないか」 「吐き気がフラッシュバックしそうだ」武司はつづけて笑ったが、突然表情を変えた。「おい待て。なんだこれ」 「だから嘔吐中のおまえだって——」  武司はスクリーンの右上、左に向かいうずくまってベンチに座る彼の背後あたりを指さした。 「なあ、これってもしかして……」  武司を観察するように見下す影。夜に紛れ込む、というよりも闇そのものといった不気味な輪郭で構成されている。どこが頭でどこが目で、そんなことは難しくてわからない。ただ、強烈な悪寒が体を襲った。 「心霊写真撮っちゃったかも」  武司はなぜかうすら笑いを浮かべ、「……霊なもんか。神だよ。神がいるんだ」 「ふざけんな。どう見ても心霊写真だろ。畜生、ふざけてんのは俺だ。どうしてこんな夜中に写真撮ったんだ俺は!」 「礼を言うよ。これで俺の話に信憑性が増した。ちょっと貸せ」  武司は返答を待たずスマホを取り上げた。送信完了、と言うと、次に自分の端末を弄り出した。 「よし。見ろ。ロック画面とホーム画面にしたぞ。これで前からも後ろからも神に見守ってもらえるんだ。神オセロだな」 「……バチ当たるぞ」 「馬鹿言え。神自ら出てきてるんだ」 「俺は消すからな、この写真」  思えば、そのときすでにわかっていた気がする。公園を出て、すぐ横の川沿いを歩きながら、俺はぼんやりと考えていた。——武司はまもなく死ぬ、と。
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