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それでもはやての知りたいことを一つ一つ選び、しどろもどろなままに話した。
「実の兄なんやけど、義姉さんと結婚した一年後ぐらいに失踪しおったんや。置き手紙も、なーんも残さんと」
理由もわからぬまま、告げぬまま、愛した女性の元を去る。それがどんなに残酷なことなのかと、真楽は両拳を震わせて云った。
男は真楽と同じように、鬼見の才を見出だされた存在である。
義姉はそれを承知で結婚した。一重に、男を愛していたからだ。けれど肝心の男は突然姿を消し、義姉を苦しませている。
真楽にとって、それは許しがたいことであった。
「兄貴は俺と違うて、強い霊力持っとるんや。ま、そう謂うても、坊ほど強力やあらへんけどね。それでも、それを抜きにしても喧嘩の腕っぷしは強うてなあ。顔を利かせて、荒くれ者たちを制御しとった事もあった」
ガキ大将ならぬ、町を牛耳る存在と云っても過言ではない。
そんな男だからこそ、誰にも何も云わずに出ていったことが引っかかってしまう。真楽は裏表のない素直な言葉を空気に乗せた。
「義姉さんは捜索願とか出したらしいんやけど、未だに姿形すらないそうや。で、俺は云うと……兄貴のせいで、義姉さんに顔見せるんが忍びなかったんや」
腕を組み、冬の風を身体に浴びる。打ちつけるように凍える風は筋肉質な真楽の体温を奪っていった。真楽ですら寒さに震えている状態である。
真楽よりも薄く、線の細いはやては彼以上に堪えていた。近くにいるあやかしを抱きしめ、寒いを連呼している。
「……あー、坊。取り敢えず、中入ろか?」
普段は図太い神経ではやてに接する真楽も、今回ばかりは遠慮しがちのようだ。けれど凍えて風邪をひくよりはマシだと、店の扉へ手を伸ばす──
店の中は暖房が利いていて暖かい。
内装は洋風の壁でありながら、座敷風の場所もあった。注文を終えて食事をする人々の机を見れば、洋食のハンバーグや和食の刺身などが置かれている。
「うわあ、予想以上に和と洋が混ざってますねえ」
逸る気持ちを抑えきれないはやては、子供っぽさを表情に出して笑顔を浮かべた。
そして案内された奥の座敷のような場所へと腰を落ち着ける。足の高い机があり、それを囲うようにして座布団が敷かれた座敷となっている。机が置かれている場所の底は低く、まるで堀こたつのよう。
「こんな不思議なところ、座った事ありません」
真向かいに座る真楽へ、正直な感想を伝えた。
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