今日の京都は夷川通の家族事情

6/13
前へ
/108ページ
次へ
 それでもはやての知りたいことを一つ一つ選び、しどろもどろなままに話した。 「実の兄なんやけど、義姉さんと結婚した一年後ぐらいに失踪しおったんや。置き手紙も、なーんも残さんと」  理由もわからぬまま、告げぬまま、愛した女性の元を去る。それがどんなに残酷なことなのかと、真楽は両拳を震わせて云った。    男は真楽と同じように、鬼見(けんき)の才を見出だされた存在である。  義姉はそれを承知で結婚した。一重に、男を愛していたからだ。けれど肝心の男は突然姿を消し、義姉を苦しませている。  真楽にとって、それは許しがたいことであった。 「兄貴は俺と(ちご)うて、強い霊力持っとるんや。ま、そう謂うても、坊ほど強力やあらへんけどね。それでも、それを抜きにしても喧嘩の腕っぷしは強うてなあ。顔を利かせて、荒くれ(もん)たちを制御しとった事もあった」  ガキ大将ならぬ、町を牛耳る存在と云っても過言ではない。  そんな男だからこそ、誰にも何も云わずに出ていったことが引っかかってしまう。真楽は裏表のない素直な言葉を空気に乗せた。 「義姉さんは捜索願とか出したらしいんやけど、未だに姿形すらないそうや。で、俺は云うと……兄貴のせいで、義姉さんに顔見せるんが忍びなかったんや」  腕を組み、冬の風を身体に浴びる。打ちつけるように凍える風は筋肉質な真楽の体温を奪っていった。真楽ですら寒さに震えている状態である。   真楽よりも薄く、線の細いはやては彼以上に堪えていた。近くにいるあやかしを抱きしめ、寒いを連呼している。 「……あー、坊。取り敢えず、中入ろか?」  普段は図太い神経ではやてに接する真楽も、今回ばかりは遠慮しがちのようだ。けれど凍えて風邪をひくよりはマシだと、店の扉へ手を伸ばす──  店の中は暖房が利いていて暖かい。  内装は洋風の壁でありながら、座敷風の場所もあった。注文を終えて食事をする人々の机を見れば、洋食のハンバーグや和食の刺身などが置かれている。   「うわあ、予想以上に和と洋が混ざってますねえ」  逸る気持ちを抑えきれないはやては、子供っぽさを表情に出して笑顔を浮かべた。  そして案内された奥の座敷のような場所へと腰を落ち着ける。足の高い机があり、それを囲うようにして座布団が敷かれた座敷となっている。机が置かれている場所の底は低く、まるで堀こたつのよう。 「こんな不思議なところ、座った事ありません」  真向かいに座る真楽へ、正直な感想を伝えた。  
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!

105人が本棚に入れています
本棚に追加