二君に仕う

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 本柳の主君は予告通り、税の量を偽ったという言い掛かりを皮切りにして直柾を衆前で面罵し、領地の大半を取り上げた。  もともと感情を表すことの少ない直柾は、怒ったふりも大してできない。ただ緊張もあって、罵倒されている間、ひたすら床を睨んだ。  直柾は家に帰ると、この計画を妻にのみ打ち明けた。  彼は心配する妻を宥めると、その晩のうちに愛刀だけを抱え、遠野の領地へ向かって走った。  夜通し走り、翌日の昼に、直柾は遠野秋國の屋敷を訪ねた。  秋國は、敵方の武将である直柾を知っていた。直柾は意外にもすんなりと、秋國の前へ通された。  遠野の君主は言った。 「本柳の忠臣が一体何用かと、興味深く思うてな。さあ、斬られる前に言うてみよ」  視線が探るように直柾を射る。さあ、彼は演技をせねばならない。 「……私は、本柳の殿に捨てられ申した。それゆえ、遠野さまにお仕えできぬかと」  秋國は首を傾げた。 「捨てられたとな?」  緊張を押し込めるように訥々と、直柾は本柳で起きたことを説明した。 「本柳の殿は、私をもう本柳の臣ではないと。何より所領を召し上げられては、食ってゆけませぬ」  暫くの間秋國は直柾の顔を見つめていたが、やがて言った。 「それで、主を見限ったと。汝の人となりは、忠に厚く実直そのものだと噂に聞いたが」  そこで直柾が感じたものは、恥か緊張か怒りか。顔が赤くなり、目が吊り上がった。  口を開くと、思ったよりも随分大きな声が出た。 「そうでは、なかったのでしょう。……無念です」  彼の様子を見た秋國は何を思ったのか、それ以上は訊ねなかった。  直柾は遠野に召し抱えられることとなり、屋敷と使用人とを与えられた。
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