第4話:幼なじみからの脱却

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「そうか。2人の仲が元通りになって安心したよ。皆川や中条からも話は聞いていたから、大丈夫かなとは思っていたよ」  翌週の半ば、仕事が終わったオレと凛は瀬川先生の住んでいるマンションを訪れていた。瀬川先生は当直勤務明けで午前中のうちに帰宅しており、桐ヶ谷さんも夜勤明けということで既に家に帰っていた。  仕事が終わった凛と待ち合わせをして、いつもの駅へと向かう道ではなく、そのまま街中から少し外れた住宅街を歩いていく。程なくすると、瀬川先生たちが住んでいるマンションが姿を現した。 「今回のことは、本当にすみませんでした。凛だけでなくて、瀬川先生たちにもすごく迷惑と心配をかけてしまいました」 「なに、気にすることはないよ。人間、大なり小なり過ちは犯すものさ。大事なのはその後の行動ということで、日下部くんはちゃんと七瀬さんのところへと駆け付けた。君たちの顔を見ると、ちゃんと話し合いをして仲直りをしたのだと想像がつくよ」  リビングに招かれたオレは、椅子へと座る前に深々と瀬川先生と桐ヶ谷さんに頭を下げる。そんなオレに、瀬川先生は優しく肩を叩き、椅子に座るように促す。テーブルの上には、この前と同じように桐ヶ谷さんが淹れてくれたコーヒーが置かれていた。 「まあ、私としては別れるかなと思っていたけど意外だったわね。七瀬さんも、ちゃんとビンタの1発くらいはお返ししたのよね? 私だったら、ビンタどころか吊し上げてベランダからぶら下げておくけど」 「お、おい……何でそこでオレの方を見るんだよ。そんな恐ろしいこと考えてたのか?」 「もしもの話よ。あんたがそんなことしないって分かってるから、仮の話よ」  桐ヶ谷さんの身の毛もよだつ発言を受けて、瀬川先生は恐れ慄いていた。テーブルの向かいに座っていたオレも、彼女が桐ヶ谷さんでなくて良かったと、心の底から思っていた。  オレの隣にいた凛は、苦笑いを浮かべながらも桐ヶ谷さんを宥めていた。 「最初は、やっぱり冬くんのことは許せなかったんです。私のことを置いて、違う女の人のところへ行ってしまったから。でも、冬くんがいなくなった生活を考えたら、私には耐えることは出来ませんでした。付き合ってから間もないというのに、私には冬くんのいない未来が考えられなかったんです」  オレの方を見ながら、凛は穏やかな口調で話す。その視線はどこか遠くを見つめているようで、自分の中で過去を回顧しているようにも見えた。
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