プロローグ:疎遠の幼なじみ

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「日下部くんはそんな人はいないのか? モテそうな外見をしてるのに、そんな話を聞いたことが無かったからな」 「付き合ってる彼女なんていないですよ。そもそも、今までそんな人すらいたこと無いんですから」 「ははっ、日下部くんらしいな。でも、あんまり真面目に仕事ばかりしていると、せっかくの出会いのチャンスも逃してしまうぞ? ここは院内で良い人を探してみるというのはどうだ?」 「院内恋愛なんて嫌ですよ。そもそも、周りにバレたら何て言われるか分からないじゃないですか。いつだったか、循環器内科の中条先生が看護師と一緒にデートしてたのも噂になっでしたよね? あと、消化器内科の部長が不倫をしていて退職に追い込まれたとか。そんなハイリスクローリターンなこと、するはずないですよ」  職員食堂でラーメンを食べながら、皆川さんと雑談を交わす。  瀬川先生と桐ヶ谷さんという人が結婚するという情報が流れたときは、院内全体がざわついていたようだった。一躍有名人となってしまった2人の名前は、毎日のように病院内の至る所で噂されていて、今だに途絶えることはなかった。瀬川先生と同期である皆川さんも知らなかったようで、初めて聞いたときはめちゃくちゃ驚いたということだった。 「でもほら、院内に知り合いがいるんだろう? 確か、昔ながらの幼なじみが一緒に働いているとか言っていたじゃないか。この前の飲み会で、酔っ払った日下部くんが話していたぞ?」 「そんなこと言ってたんですかオレは……その話は聞かなかったことにしてください。もう、ずっと離していない間柄ですから」  酒は災いの元であることを実感したオレは、残りのラーメンを一気に啜り込む。オレの雰囲気を察した皆川さんも、それ以上突っ込んだことを聞いてくることはなかった。  皆川さんの言う通り、この病院内にはオレの幼なじみが働いている。確か、助産師として働いているという話を母親から聞いたことがあった。しかし、オレとあいつは小学校の途中くらいからほとんど遊ぶこともなくなったし、中学に入ってからも話すことは数えるほどだった。地元の高校を卒業して進路が別れた後にこの病院で再会した訳であったが、だからといって話が弾むわけでもなく、仕事以外で話すことは無かった。  きっと、この関係が変わることはないだろう。そもそも、そんな昔のことを覚えているかと言われると、首を縦を振れるとは言い難かった。あくまでも昔よく一緒に遊んだという関係であって、それ以上の関係ではなかった。
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