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「おっ、迷わず来れたみたいだな」
「そりゃあ、これだけ大きなマンションだったらすぐに分かるさ。約束通り、日下部くんを連れて来たぞ」
「……瀬川先生?」
立派なエレベーターでだいぶ上ったフロアの一角。入口の呼び鈴を皆川さんが押すと、中から出て来て応答したのは瀬川先生だった。
話の流れが分かっていないオレは、状況が分からないまま首を傾げる。皆川さんと瀬川先生は揃って頷くと、オレを部屋の中へと手招きした。
「だいぶ混乱しているみたいだな。無理はないと思う。とりあえず、中に入ってくれ。話はゆっくりと中でしよう」
「……だそうだ、日下部くん。俺も瀬川のマンションに来るのは初めてだから、ゆっくりしていこう」
「は、はぁ……」
流れのままに中へと入ると、広々とした玄関が出迎える。綺麗に整頓された靴や、隅々まで綺麗に掃除されている廊下。これだけでも、瀬川先生の人となりが分かるような気がした。
真っ直ぐに伸びた廊下を歩いていくと、やがて大きな扉が姿を見せる。先頭を歩いていた瀬川先生が扉を横にスライドさせると、広々としたリビングが姿を見せる。そして、そこには見たことのある人たちの姿があった。
「ったく、ようやく来たな。待ちくたびれて帰るところだったぜ」
「いらっしゃい、皆川くん。それに……日下部くんだったかしら?」
「えっと……中条先生と、桐ヶ谷さん……?」
リビングで待っていたのは、瀬川先生と皆川さんの同期である中条先生と、瀬川先生と結婚した桐ヶ谷さんだった。桐ヶ谷さんがいるのは容易に想像がついたが、中条先生がいるのは予想外だった。
桐ヶ谷さんを病院の外で見るのは初めてのことであり、話すのも初めてだった。白衣姿とは違ってラフな部屋着だが、整った顔立ちとスタイルの良さが際立っている人だった。中条先生は何度か病院内で見かけたことはあったが、実際に話すのは凛の痴漢騒動のとき以来だった。
「とりあえず、みんな適当に座ってくれ。今、結衣がコーヒーを淹れてくれているから」
「とりあえずブラックで入れるから、ガムシロップとかは適当に入れてね。あんまり上手く作れないけど」
「休みの日なのにすまないな、桐ヶ谷さん。さっ、日下部くんも座ろうぜ」
「あっ……は、はい」
皆川さんに促されて、オレはリビングの真ん中に置かれていた長テーブルの前に着席する。3人ずつが向かい合わせで座ることの出来るテーブルの反対側に中条先生が座っていて、その隣である真ん中に瀬川先生、その隣に桐ヶ谷さんが座る。皆川さんは瀬川先生の正面に座り、オレは桐ヶ谷さんの向かいに座る形になった。
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