第4話:幼なじみからの脱却

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「こんな話を日下部くんにしたら怒られるかもしれないとは思っていたが、聞かなかったことには出来なかったんだ。皆川から、日下部くんの様子が最近おかしいということを聞いてね。その話を同期である中条に話をしたら、七瀬さんの名前が出て来たんだ。それで、失礼を承知の上でオレは七瀬さんと接触を試みた。正確には、このマンションに来てもらって、みんなで話を聞かせてもらったんだ」 「……そんなことが…………」  瀬川先生からの話に、オレは何をどう反応したら良いのかが分からないでいた。  瀬川先生たちによると、凛は以前にここに来たことがあるということらしい。そして、オレと夏実さんの関係性を聞いたのだろう。 「どうか、七瀬さんのことは怒らないでやって欲しい。これは、オレたちが勝手にやったお節介だからな。同じ院内で付き合っている人がいる者同士で、放っておくことは出来なかった。隣にいる中条も、口は悪いが2人のことを心配していたんだよ」 「まったく、余計なことを言うんじゃねぇよ。女の方から話を聞いてみれば、彼氏が同じ部署の女と飲みに行ったら、そのまま寝取られたって言うしよ。院内では日常茶飯事らしいが、実際に耳にしたのは久しぶりだったぜ。その女、うちの循環器の部長とも関係をもったことがあるんだろ? とんだクソ女じゃねぇか」 「な、中条。もう少しオブラートに包んでやってくれ。仮にも、うちの部署の優秀な若手なんだから」  思ったことをストレートに言う性格らしかった中条先生は、不満そうな表情を隠すことなく、夏実さんのことをボロクソ扱いしていた。そんな夏実さんをフォローするわけではないのだが、皆川さんはもう少し柔らかい表現をするように、中条先生を宥めていた。 「それで、お前はそいつとノコノコとホテルに行って、そのままその女の言いなりのままに欲望をぶちまけたってわけか? お前もとんだクソ野郎じゃねぇか、あ?」 「おい、中条。気持ちは分かるが、日下部くんだって騙された側なんだから、少しは言い方というものをだな」 「でも、私は今回の件に関しては中条先生の意見に賛成よ。そんな男、私ならビンタして速攻で別れてるわね」 「……らしいぜ、瀬川先生よ?」 「いや、オレは別に何もしてないだろ! 結衣がいるのに、そんなこと恐ろしくて出来るわけないだろ」  中条先生と桐ヶ谷さんはオレのことを非難し、瀬川先生と皆川さんはオレのことをフォローしてくれていた。  実際のところ、2人に言われたように罵倒された方が気持ちとしては納得がいっていた。それだけのことをしてしまったのだから、2人の反応はむしろ当然のことのように思えていた。
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