第4話:幼なじみからの脱却

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「話を戻すが、先日ここに七瀬さんに来てもらったんだ。そこで、日下部くんと野村さんとの間に起こった一連の出来事について聞いた。簡潔に言うと、七瀬さんの口からは一言も日下部くんを責めるような言葉は出て来なかった」 「えっ……どうしてですか? オレは、取り返しのつかない過ちを犯してしまった。それこそ、凛に絶縁されてもおかしくないと思っていました。それなのに、どうして……」  瀬川先生からもたらされた話に、オレは思わず視線を上げる。それだけ、瀬川先生の言っていることが信じられなかったのだ。  瀬川先生はコーヒーを一口飲むと、オレの様子を伺いながら話を続ける。桐ヶ谷さんや中条先生、それに皆川さんは、口を挟むことなく瀬川先生の話を聞いていた。 「『冬くんは優しい人だから、きっと頼まれたら断れない性格なんだと思います。今回のことも、冬くんは何も悪くないって分かっているんです。それは、私の中の弱い部分があるからのそ、こうして冬くんと距離を取っているんだと思います。幼なじみという関係だけで冬くんと付き合っているけれど、私が冬くんを本当に好きなのか考える良いきっかけになったと思います』と、七瀬さんはオレたちに話してくれたよ」 「凛が……そんなことを……」  それ以上何も口を開くことが出来ないでいたオレは、瀬川先生の話の続きを聞くことしか出来なかった。  脳裏に、優しくて健気な凛の姿が思い浮かぶ。裏切ってしまったオレのことを、凛は全く責めていなかったらしい。普通なら、罵倒してビンタの1発でも受けているだろう。それなのに、凛はオレへの恨み節1つ言うことなく、オレよりもずっと強いメンタルを持っていた。  それに引き換えオレは、凛への申し訳なさと自分自身の情け無さに、感情を抑え切れずに泣きそうになってしまっていた。 「冬くんが行ってしまったのは、きっと私に魅力が無いからかもしれませんと、七瀬さんは言っていたよ。それでも、私が冬くんを好きな気持ちは変わりませんとも言っていた。幼なじみではなく、1人の女性として日下部くんのことを愛していたよ」 「あっ……あぁっ……!」  今度こそ、溢れて来る想いを止めることは出来なかった。  今すぐに凛のところへ駆けつけて土下座したいという衝動に襲われる。両手で顔面を覆うものの、溢れて来る涙を止めることは出来なかった。懺悔をするように、嗚咽がどんどんと大きくなっていく。人目を憚らずに、オレは自分自身の弱さを曝け出していた。
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