第4話:幼なじみからの脱却

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「オレは……凛のことを裏切った。オレのことを信じてくれたのに、夏実さんの策略にはまって、凛のことを悲しませる結果になった。凛はきっとオレのことを許さないだろうし、そう簡単に許してもらえるとも思ってない。だから、オレがこれを持っているのはおかしいことだと思うから」 「……冬くんは、私のこと嫌いになった?」 「……好きだよ。誰よりも、ずっと」  涙を隠すことのない凛を抱きしめたい衝突に駆られるも、両手を強く握りしめて耐える。今ここで、オレが凛のことを抱きしめるという資格はないだろう。最大の裏切りをしたオレにとって、今の凛はそう簡単には触れてはならない存在だった。  しばらく凛は涙を流し続けていたが、数分ほど経過すると、少し落ち着きを取り戻した様子を見せる。それでも、凛の頬には涙の跡がくっきりと残されていた。 「……検査課の皆川さんと、それに中条先生に声を掛けられたの。冬くんの様子がおかしいことを感じた皆川さんが、同期である瀬川先生や中条先生に相談したみたい。それで、中条先生が私の名前を出して、皆川さんと瀬川先生が私と話をしたいって連絡をして来たの」 「昨日、皆川さんたちから聞いたよ。中条先生がストーカー事件のことを覚えていて、オレと凛の関係性にも気が付いていたみたいだった。だから、オレの様子がおかしいと聞いて、凛の名前が出たんだと思う」  あのとき、ストーカーを捕まえるときに中条先生がいたのは本当に偶然だった。そして、意外にも中条先生はオレと凛のことを覚えていたのだ。皆川さんから相談を受けたときにオレたちのことを思い出したのは、さすがだと思うべきなのだろう。桐ヶ谷さんも言っていたが、中条先生は意外にも良い人なのかもしれない。 「皆川さんがね……私に向かって頭を下げたの。日下部くんは、絶対にそんな過ちを犯す人じゃない。何か事情があったと思うから、どうか日下部くんのことを許してやってくれって……」 「皆川さんが……」  そんなこと、昨日の皆川さんは一言も言っていなかった。周りにいた瀬川先生たちも教えてくれなかったということは、皆川さんが口止めをしていたのだろうか。  いつもは頼りなさそうな皆川さんだったけれど、本当は後輩のことをちゃんと考えてくれている人だということは知っていた。オレも皆川さんのことは信頼しているし、いつも助けてもらっていた。だからこそ、あまり余計な心配はかけたくなった。
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