第4話:幼なじみからの脱却

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「……私も、冬くんがそんなことを自分からするような人じゃないってことは知ってた。でも、私自身が冬くんのことを本当に好きなのかどうか、分からなくなったの。幼なじみで久しぶりに話せたから、流れに任せて付き合っているだけなのかなって思ったりもした。だから、野村さんに冬くんとの関係性を聞かれたときに、私は胸を張って答えることが出来なかった」 「凛……」  オレが夏実さんに振り回されている間、凛もまた何度も苦悩していたのだと思われた。凛の心の内を聞かされたオレは、自分が自分のことしか考えていなかったことを思い知らさふれた。 「でもね……この1週間、1人で通勤して1人で休みの日を過ごしたけれど、冬くんのことがずっと頭から離れなかった。このまま、野村さんに冬くんを取られるのを黙って見ているのは嫌だよ」 「……凛……」 「やっぱり……やっぱり私は、冬くんのことが好き。私のことを1番に考えてくれる、優しい冬くんが好き。優しくて、誰かに頼まれたら断れなくて、自分が損してしまっているような冬くんが……大好きだよ」 「凛っ……!」  今度こそ、オレは凛のことを抱きしめた。汚れた手かもしれないけれど、凛もオレの背中に手を回して応えてくれる。  夏実さんのものとは全然違う、温かな熱が伝わってくる。自分が好きで仕方のない温もりを、オレは久しぶりに感じることが出来ていた。 「ごめん、ごめんな……」 「許さない……絶対冬くんのこと、許さないから。これからずっと、私のこと1番に愛してくれないと……許さないから」 「ああ……約束する」  胸の中で激しく泣きじゃくる凛を抱きしめながら、オレは自分の犯してしまった過ちの深さを再び実感した。  そして、もう2度とこの手を離してはならないと、心の中で強く誓った。
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