第4話:幼なじみからの脱却

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「もちろん、オレたちの関係が知れ渡ったりしたら、色々と変な噂を流す人たちが出て来るかもしれません。そうなると、質問攻めにされたり、注目を浴びることが多くなると思います。それでも、オレは凛と付き合っていることを誇りに思いたいです。コソコソ隠れて付き合うのも良いかもしれませんが、周りに見つかってしまったときはいっそのこと開き直っていきたいかなと思います。凛と付き合っていることを、むしろ周りに自慢しても良いくらいですから」 「冬くん……」  真っ直ぐに瀬川先生と桐ヶ谷さんを見つめ、オレははっきりとした口調で言う。そんなオレの右手に、テーブルの下で凛の左手がそっと重ねられた。  さすがの瀬川先生もそれには驚いていたようで、桐ヶ谷さんと顔を見合わせる。院内恋愛を経て結婚した2人だからこそ、何か思っていることがあるのかもしれなかった。 「あ、あんたたち、本気なの? さっきも言ったけど、うちの病院なんて浮気と不倫の温床よ? それこそ、そういう話が大好きな人たちがたくさんいるわけなんだし。それで、私たちがどれだけ苦労してきたことか」 「まあ、オレと結衣は同じ部署で働く関係でもあったから、尚更気を遣っていたな。オレが日下部くんくらいのときは、そんな胸を張って歩くことは出来なかったよ。前にも同じように、院内恋愛が見つかりそうで困っているカップルがいたのだが、その2人は周りに隠し続けることに成功した。でも、それはかなりのストレスになるだろう。常を神経を張り巡らせなければならないから、気疲れしてしまうかもしれない。だったら、日下部くんの言っていることもアリなのかもしれないと思う」 「ちょ、尚人!? あんたまでそんな……!? 私たちがここまで来るのにどれだけ苦労したか分からないの? それなのに、敢えて周りの好奇の目に晒させるようなことをしなくても良いじゃない!」 「もちろん、自分たちから周りに言いふらせとは言わないさ。あくまでも、誰かに勘付かれて見つかってしまったときの対処法だよ。おどおどしたりビクビクしていたりすると、それこそ弱みを握ろうとしてくる人たちがいるかもしれないからな。見つかるまでは、今まで通りの関係を続けていけば良いんじゃないかな」  首を振りながら反対していた桐ヶ谷さんに、瀬川先生は諭すような口調で語りかける。  瀬川先生の表情を見ていると、もしかすると自分もそのようなことをしてみたかったのではないかとも思えてくる。瀬川先生と桐ヶ谷さんは、付き合っていることを同期の皆川さんにすら言っていなかった。それだけ細心の注意を払っていたのだから、桐ヶ谷さんの気持ちも良く分かっているのだろう。しかし、本当は周りからきちんと認められる関係になりなかったのではないかと、瀬川先生の表情が物語っているような気がした。
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