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「そっか。でも、よく七瀬さんが冬夜くんのことを許してくれたわね。てっきり、怒ってそのままかと思ってたよ」
「そうですね。オレもそうなのかなって思ってましたけど、色んな人が助けてくれたので」
「ふーん……」
作業を続ける片手間に、オレは夏実さんの様子を伺いながら話をする。夏実さんは何か言いたそうな顔をしていたけど、それ以上は何も聞いてこなかった。
しかし、それとはまた別でオレに揺さぶりをかけてきた。
「まあ、それはそれで良いけど。それより、今度また一緒に飲みに行かない? あっ、今度は何もしないよ? この前みたいに、寝ちゃった冬夜くんをホテルに連れて行くなんてこと」
「……すみません。せっかく誘ってもらって悪いんですが、お断りしておきます。オレには凛がいるので」
「ふーん……断っちゃうんだ。だったら、冬夜くんとエッチしちゃったことや、七瀬さんとの関係のこと、周りに言いふらしちゃおうかなぁ?」
「…………」
今度は作業していた手を完全に止めて、夏実さんの方へと視線を移す。夏実さんは何も悪びれていないような様子で、この前と同じように含みのある笑みを浮かべていた。
恐れていたというか、予想されていたことが起こっていた。人の弱みを握ったら離さないであろう性格をしていた夏実さんからしてみれば、オレとの関係性は大きな脅しの材料となるはずだった。
「だから、一緒にまた飲みに行こうよ? ね?」
「……オレとの関係性をバラしたいのなら、好きにしてください。それで周りの噂がオレや凛に向かうのであれば、オレは凛と一緒にこの病院を辞めます」
「……どういうこと? ホントにバラされても良いの?」
そのとき初めて、オレは夏実さんの穏やかな表情が崩れるのを見た。いつもは何も考えていないようにして微笑んでいるのが、今は目を細めて明らかに怪訝そうな表情をしていた。
いずれ同じような揺さぶりがあることに備えて、オレと凛は予め話をしていた。夏実さんがこうして揺さぶりや脅しをかけてくるのも分かっていたし、このような対応をすることも、全て凛には先に話しておいたのだ。
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