第5章:決別と誓い

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「オレには、今一緒にいる凛が全てなんです。もう2度と、あいつを悲しませることはしなくない。もしも夏実さんがオレたちの関係性や自分との間に起こったことを周りに言いふらすのであれば、好きにしてください。そのときは、2人で仲良くここを去るだけですから」 「……どうして? どうしてそこまでするの? だって、あの子はただの幼なじみでしょ? 今まで同じ病院で働いていただけなのに、それがどうして?」  理解出来ない様子の夏実さんは、少し取り乱しているかのように、矢継ぎ早に質問をしてくる。そんな夏実さんに退くことなく、オレは冷静に自分の意見を話していく。  誰もいない検査室は、オレと夏実さんの声以外は何の物音もしていなかった。採血データを抽出している機械もその役目を終え、物静かに鎮座していた。 「それは……夏実さんには言えません。でも、オレが凛のことを大切に想っているのは変わりないですから。だから、オレは夏実さんとこれ以上の関係にはなれません」 「……何よ、それ。どうしてあの子なのよ!? 私の方が、ずっと冬夜くんの近くにいたじゃない!? それなのに、どうして!? どうしていきなり現れた幼なじみのくせに、冬夜くんの近くに付きまとうのよ!?」 「夏実さん……」 「どうして……私の方が、冬夜くんを……」  抱えていた想いが爆発したのか、夏実さんは両手で顔を覆いながら悲痛な声で叫ぶ。そんな夏実さんの内心を全く知らなかったオレは、正直面食らってしまっていた。  まさか、夏実さんがそんなことを思っていたなんて、知りもしなかった。いつも穏やかな笑顔でいて、後輩のオレに優しく仕事を教えてくれていた夏実さん。しかし、今目の前にいる夏実さんとは、全くの別人に見えた。 「オレは……夏実さんのことを頼りになる先輩だと思ってます。それは、今までもこれからも変わりないです。夏実さんに関する噂が色々と飛び交っていますけど、オレは夏実さんのことを信じてます。あんなに優しく仕事を教えてくれていた夏実さんが、そんなことをするはずがないですから」 「……ふふ、買い被らないでよ。冬夜くんの耳にも入っていたでしょ? 私が色んなドクターと関係を持っているって。それは本当よ? だって、みんな私に近寄って媚びて来るのだから、仕方ないでしょ?」 「……夏実さん」  当事者から語られる真実は、他の誰から聞く噂話よりも重く耳に響いて来る。  信じたくはなかったが、夏実さんの口から語られた以上は、それを真実として受け止めるしかなかった。
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