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「えっ、野村さんとそんな話をしたの?」
夏実さんと決別した日から数日が経過した週末の夕方、オレは凛の住んでいるアパートを訪れていた。夏実さんと話をしたことを凛に伝えると、凛は驚いていたようだった。
幸いにも、夏実さんと話をした日以降、病院内でオレと凛のことについての噂を聞くことは無かった。きっと、夏実さんが周りに言いふらしたりしていないからだと思われた。
「凛には黙っていようと思ったけれど、隠したりするのは止めようと思ったんだ。もしも夏実さんがオレたちのことを言いふらして噂になるのであれば、オレは凛と一緒に病院を辞めてやるっては言ったけど」
「そう……冬くんが野村さんのことを信じているのは分かるけど、あんまり無茶したらダメだよ? 私だって、冬くんと一緒ならどんなに辛いことも頑張れるって思ってるんだから。だから、1人で頑張ろうとしないでね」
「ああ……ありがとう、凛」
夕飯を済ませた後、リビングのソファーに2人で並んで座りながら、オレは夏実さんとの間に起こったことを話す。凛に怒られるかと思ったが、凛は逆にオレのことを心配してくれていた。
凛が体重を掛けるようにして、オレの肩にもたれかかって来る。そんな凛の頭を何度か撫でながら、オレは凛の体温を間近で感じていた。今年もあと僅かとなった年末は、怒涛のような出来事の連続だった。
「でも……冬くんに尊敬されてる野村さんが、少し羨ましいな。私は助産師だし、臨床検査技師の冬くんと接する機会はほとんど無いから、冬くんが仕事をしているところをほとんど見れないし……近くで働いている野村さんのことを良いなって思ったりするよ。また、冬くんを取られちゃうんじゃないかって不安になる」
「大丈夫だよ。もう、夏実さんと話はついているから。ここまで時間が経っても辺な噂が流れて来ないということは、夏実さんは事を荒立てるつもりは無いんじゃないのかな」
冷静に状況を分析して凛に話すも、凛は少し不満そうな表情をしていた。それは、理屈ではない何かを抱えているようにも見えた。
そして、頬を膨らませた凛が不満そうに上目遣いでオレのことを見上げてくる。
「それは分かってるけど……私は不安なの。いつ冬くんが取られちゃうんじゃないかって、毎日辺な方に想像してる。冬くんが大丈夫だって言ってくれるのは嬉しいけど……ちゃんと行動で証明して欲しい」
「凛……」
凛の言葉の意味を理解したオレは、胸の鼓動が早くなっているのを感じていた。その鼓動が凛にも伝わっていたのか、凛はそっと瞳を閉じる。
気が付いたときには、オレは吸い寄せられるようにして、凛と唇を重ね合わせていた。
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