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⒁
「く、くそっ、タクとコージの仇だあっ」
トオルは壁際に積まれていた金属の杭を手に取ると、僕に向かって突進した。
「……むっ」
杭は僕の腹部に深々と突き刺さり、トオルは震える声で「ど、どうだ化け物」と叫んだ。僕は突き立てられた杭を一気に引き抜くと、「返す」と言ってトオルの顔面に投げつけた。
「――がっ」
トオルの口を突き破った杭は後方に飛んでコンセントの穴に刺さり、トオルの身体を壁にピン止めした。
「うがああっ!」
青白い電流に全身を貫かれたトオルはびくんと身体を弓なりに反らすと、それきり動かなくなった。
「あと一人……」
僕が残った舘岡を見た瞬間、千早が「もうやめて……」と絞り出すような声で漏らした。
「これは契約だ。完了するまで中断はない」
「……契約?」
千早が僕の「眼」に当たる部分を見返し、僕と千早の「視線」が一瞬、空中でぶつかり合った。
「あなた、もしかして……梶山君?」
千早から問い質すような眼差しを向けられた僕は、思わずプロテクターに覆われた顔を伏せた。
「ねえ本当に梶山君なの?……だったらこんな残酷な契約、キャンセルして。お願い!」
「……契約にキャンセルはない」
僕であって僕でない声は、千早の訴えを冷酷に退けた。ここにきて僕はようやく、自分の判断が早まった行為であることに気づいていた。契約は一度動き出したら止まらない。悪魔の罠にかかったのは千早ではなく、僕の方だったのだ。
「……な、なああんた」
殺戮が止まったことで余裕が出たのか、ふいに舘岡が猫撫で声で僕に語りかけてきた。
「金が欲しいなら、親父に話をつけていくらか都合してやってもいいぜ。いくら払ったら見逃してくれる?それとも欲しいのは女か?うん?」
口許に卑屈な笑みを浮かべてにじり寄ってくる舘岡に、僕は黙って頭を振ってみせた。
「変換不能な紙切れなど無意味だ」
僕はそう言うと、再びナイフになった手で舘岡の右目ををくり抜いた。
「ぎゃあああっ!」
僕はえぐった眼球を視神経をごと引きずり出すと、開いたままの口に押しこんだ。
「うげええっ」
「これでおわりだ」
僕がナイフを横一文字に払うと、舘岡の首から上がすっぱりと綺麗に消滅した。
舘岡の頭部が「信じられない」という表情のまま床に転がると、首の切断面から大量の血が噴水のように溢れ出た。
「いやあああっ!」
首から上を失った舘岡は血を噴きあげながら奇妙な足取りで二、三歩歩くと力尽きたように床に崩れた。
「ああ……」
血の海を前に放心状態の千早に、僕は「契約は完了した」と機械的な口調で告げた。
――千早……ここでお別れだ。
僕は千早に背を向けると、振り返ることなく歩き出した。
「梶山君、行かないで……」
戸口の前まで進んだ足が千早の消え入りそうな声を聞いた瞬間、ふと止まった。
「お願いだからここに残って罪を認めて……私も……償うから」
「――さよなら」
僕は「僕の声」でそれだけを告げると、千早の顔を見ずにその場から立ち去った。
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