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「こいつがね、次の『主』を探しているらしいんだ」 「主?」 「だからこれ、君にあげるよ。もちろん、使う使わないは君の自由さ」  そう言って男性が僕に差し出したのは、ポイントカードを思わせるカードだった。 「これは……?」 「君のように、何もしていないのに不運に見舞われやすい人の手助けをするカードだよ」 「手助けを、カードが?」  カードには黒字に赤で『グラスクラック』と書かれていて、何のカードかよくわからなかった。 「そう。正確に言うと裏面についてるコードを読み取ってもらった先のサイトが助けてくれるんだけどね」  ははあ、と僕は思った。よくはわからないが世の中には復讐引き受け業者なるものを生業にしている人間がいるという。このカードはそういった闇の業者にアクセスするカードなのかもしれない。 「あなたはこのカードというかサイトを……利用したんですか?」 「うん、まあね。それほど使ったわけじゃないけど、もういいんだ」  小柄な男性は僕に押しつけるようにしてカードを渡すと、背を向けて歩き出した。  ――復讐屋をやとうなんて、考えたこともなかったな。  だけど、と僕は思った。  どうせろくな人生が与えられないのなら、何か一つくらい執着したっていいのではないか。だとすればそれは千早以外にはない。もし僕に力があったら、たとえ逮捕されても奴らをぶちのめすだろう。必要ならボスの舘岡を殺したって構わない。  でもそれには条件がある。千早本人が暴力を嫌悪しないことだ。そうじゃないのなら、たとえ奴らを這いつくばらせたところで何の意味もない。僕が彼女に軽蔑されるだけだ。                  ※  身体を引きずるようにしてアパートにたどり着いた僕は、すれ違った隣人に同情の視線を向けられながら部屋へと戻った。 「コードを読み取る……か」  僕は一抹の恐怖と後ろめたさを覚えつつ、カードの裏にプリントされた目が痛くなるようなモザイク模様を眺めた。  ――プロにもめごとの処理を頼んだりしたら後々、面倒なことになるんじゃないか?  僕は逡巡した挙句、携帯のレンズをコードに近づけた。ピッという音がした次の瞬間、携帯が本来のバイブレーションとは明らかに異なる震え方――そう、まるで生き物のような――を僕の手に伝えてきた。 『グラスクラック』  黒一色のページ上に記載されていたのは謎のサイト名と『体験版をダウンロード』という赤い文字だけだった。  ――ま、体験版くらいならいいか。  僕が赤いボタンをタップした次の瞬間、再び手の中で携帯がぶるりと震えた。 「えっ……なっ、なんだ?」  真っ黒な携帯の画面から何もない空間に「出てきた」のは、十センチくらいの「人間」だった。
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