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「嘘だろ……これって最新のVRかホログラム?」  僕は放りだした携帯の上に浮かぶ黒づくめの人物を前に、何度も目をこすった。 「私はグラスクラッカー。望みを聞く者」  宙に浮かぶ黒づくめの人物は低い声でそう言い放つと、「チュートリアルを開くか?」と僕に尋ねた。 「それって、体験版の使い方の事?……はい、お願いします」  どう操作してよいかわからず途方に暮れた僕は、プログラムだろうと思いつつ浮かぶ人物に向かって答えた。 「説明を開始する。当サービスは魂の中に一定量の怨念を持つ者を対象とする」 「怨念?」  宙に浮かぶ人物の口から出た、デジタルの世界にそぐわない言葉に僕は思わず首を傾げた。人物の頭部は黒いスモークガラスを思わせるプロテクターで覆われ、左目に当たる部分に赤い半月型の光がぼうっと浮かび上がっていた。 「体験版を利用するか?」 「……うん」  僕が頷くと、黒づくめの人物はわずかに覗いているほとんど唇のない口を動かして説明を始めた。 「体験版に与えられるサービスポイントは50。『怨料(おんりょう)』に変換すると24ネメシスに相当する」  黒づくめの人物が話す単語は何が何やらわからなかった。 「汝のポイント数で利用可能なサービスは、対象となる魂の数が「1」、可能な制裁が「屈辱」となる」 「なんだかよくわからないけど、体験版でどんなことができるのかを具体的におしえてくれないか」 「ではヴィジョンを開始する。スタートボタンに触れよ」  人物がそう言うと、空中に割れたガラスの絵が現れた。僕が促されるまま指先で触れると人物の姿が消えて目の前で強烈な光が明滅した。 「あ……」  次の瞬間、僕は自分の部屋ではなく小雨の降るどこかの街角に「別の姿」で立っていた。    ――これは、仮想現実なのか?  街角に出現した僕は、空中に現れた人物と同じ黒づくめの姿をしていた。驚いたことにずんぐりと小柄だった体型までがすらりとした長身に変わっていた。  何を見せられるのだろう、僕がどきどきしながら人気のない通りにたたずんでいると前方に見えるコンビニのドアが開いて人影が往来に姿を現した。  ――あれは……タクだ。!  ひょろりとした細身の人影は、時折振り返って何やら悪態をつくと肩を揺らしながら歩道を歩き始めた。僕が不気味な姿のままタクの背中を追っていると、顔の前に鞭の形をしたアイコンらしき物が現れた。 『現在のポイントで使える武器――(ロッド)』  頭の中に声が響いた瞬間、僕は体験版の機能を理解した。先ほどチュートリアルで聞かされた「屈辱」だったら与えられる――  僕がそう直感した瞬間、僕の右手が黒い鞭に変化した。僕は腕を振り上げるとためらうことなくタクの足元に放った。 「――わっ」  鞭が生き物のように足首を捉え、タクはバランスを崩して濡れた路上に倒れ込んだ。 「なっ……なんだっ?」  タクは訝し気に周囲を見回すと、「くそっ」と舌打ちして再び歩き出した。  ――どうせVRなんだ、遠慮はいらないだろう。……それっ!    僕が再び鞭を放つと今度も鞭は見事に足を捉え、タクは路上に叩きつけられた。 「……畜生、なんなんだよっ!」  タクの忌々し気な声が小雨の降る路上にこだました瞬間、僕は元の姿で自宅のベッドに戻っていた。  ――今のは、なんだったんだ?  僕はふと思いたち、もらったカードを手に取った。裏面にあるポイントを示すゲージは、最初に見た時より10ほど減っているようだった。 「まさか……今のはバーチャルじゃなくて現実だったのか?」  僕はベッドに腰かけたまま、いつの間にかメニューに戻った携帯の画面を見つめた。  
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