遠く、どこまでも遠くへ

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霧島和(きりしまのどか)、23歳です。地下アイドルやってます。このことはあまり言いふらさないでくださいね』  俺の隣に座っていた彼女は、おしとやかに挨拶した。落ち着きがあって、大人びた印象だった。それが第一印象だった。  俺はなんて自己紹介したっけな。確か── 『黒崎元(くろさきはじめ)です。今年で30になります。ADやってます』  こんな簡素なものだったと思う。  最初は何人かが話しかけてきたけれど、すぐに興味は俺から移った。彼女を除いて。  彼女は常に俺に話しかけて来ていた。俺が何か言うと、とても嬉しそうに、ニコニコしながら話してくれていた。アイドルだから笑顔が上手いんだろうな、ってそのときは思っていた。  後日、連絡先を交換していた彼女の方から『また会いたいです』というメッセージが届いた。何かの間違いかと思ったが、間違いでもなんでもいい。もう一度彼女と会うことにした。
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