5話:ファーストキスだった?

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 想子は2階の園長室の扉をノックすると、中に入った。  部屋の真ん中に応接セット。その奥に園長の執務机がある。  園長は窓を背にする形でその執務机の椅子に座っていた。  想子は園長の前に立った。 「想子先生、今日は大変でしたね。犬を引き取りに来た飼い主の方には、ちゃんと繋いでおくようにと釘を刺しておきましたから」 『ほうらい保育園』の園長ーー鳳千夜(おおとりちよ)は、包み込むような笑顔で想子を迎えてくれた。  身長160センチぐらい。年齢71歳。おばちゃんパーマの小太りな女性である。柔和な物腰から母性がにじみ出ているような人だった。 「どうですか、ウチの園には慣れましたか?」 「はい、おかげ様で」 「それは良かったわ。では本日付で研修期間は終わりということにして、正式にクラスを担当して貰います」 「本当ですか!」  想子は嬉しかった。  何となく一人前の保育士として認められたような気がする。  だが園長の次の言葉がすべてを打ち砕いた。 「『花組』の先生が足りてないから、そこをお願いできるかしら?」 「は、花組ですか?!」 「どうかしましたか?」 「い、いえ……」 「どういうわけか、花組を担当する保育士は辞めていくばかりで、居つかなくて困っていたのよ」  園長は首を傾げて言った。  どうやらアオイたちの存在が原因だとは知らないようだ。 「聞けば、想子先生はすでに花組の園児にも人気があるとか。それなら安心して花組を任せられます」 「……」 「大丈夫ですよ。美咲先生には引き続き、想子先生のフォローをするように言っておきますから。じゃあ、お願いね」  園長に言われて、想子は頷くしかなかった。
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