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想子は2階の園長室の扉をノックすると、中に入った。
部屋の真ん中に応接セット。その奥に園長の執務机がある。
園長は窓を背にする形でその執務机の椅子に座っていた。
想子は園長の前に立った。
「想子先生、今日は大変でしたね。犬を引き取りに来た飼い主の方には、ちゃんと繋いでおくようにと釘を刺しておきましたから」
『ほうらい保育園』の園長ーー鳳千夜は、包み込むような笑顔で想子を迎えてくれた。
身長160センチぐらい。年齢71歳。おばちゃんパーマの小太りな女性である。柔和な物腰から母性がにじみ出ているような人だった。
「どうですか、ウチの園には慣れましたか?」
「はい、おかげ様で」
「それは良かったわ。では本日付で研修期間は終わりということにして、正式にクラスを担当して貰います」
「本当ですか!」
想子は嬉しかった。
何となく一人前の保育士として認められたような気がする。
だが園長の次の言葉がすべてを打ち砕いた。
「『花組』の先生が足りてないから、そこをお願いできるかしら?」
「は、花組ですか?!」
「どうかしましたか?」
「い、いえ……」
「どういうわけか、花組を担当する保育士は辞めていくばかりで、居つかなくて困っていたのよ」
園長は首を傾げて言った。
どうやらアオイたちの存在が原因だとは知らないようだ。
「聞けば、想子先生はすでに花組の園児にも人気があるとか。それなら安心して花組を任せられます」
「……」
「大丈夫ですよ。美咲先生には引き続き、想子先生のフォローをするように言っておきますから。じゃあ、お願いね」
園長に言われて、想子は頷くしかなかった。
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