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「センセイ、さようなら~」
お迎えの時間。園児たちは迎えに来た保護者に手を引かれ、家に帰っていく。
「はーい、また明日ね」
玄関エントランスに見送りに出た想子は、園児たちに手を振っていた。
そこに帰り支度を整えたアオイたち4人がやって来た。
「あ……」
思わず身構えてしまう。
だが4人は想子の前を素通りして、それぞれ迎えに来た母親の元へ駆け寄った。
「ママ!」
「アオイ、良い子にしてた?」
「うん」
そんな会話をしながら4人は帰って行く。
その姿は他の園児たちとなんら変わりない。想子に見せた大人びた姿が嘘のようだった。
「そっか、私が意識しすぎなだけだったのかも……」
想子はホッとしつつも、一抹の寂しさを感じていた。
園児が帰って片付けを済ませると、想子は美咲先生と一緒に園を出た。
時間外保育の時間まで働き、後片付けを澄ませると、帰宅時間は夜の8時頃にまでなってしまう。
あたりはすっかり暗くなっていた。
土手沿いの道を美咲と一緒に歩く。
近くの電柱に張り紙を見かけた。
今朝、登園するときは見かけなかった張り紙だった。
「あれ、これは?」
「迷い犬みたいね」
近所の飼い犬が逃げ出してしまったらしい。
「見つかればいいですけど」
「野犬化したら困るわね。この道、ウチの園児も通るし」
河川敷の方を見た。
外灯のない河川敷は暗闇に包まれている。広い。雑草がうっそうと茂っており、ここから川面までは遠かった。
想子と美咲は土手沿いの寂しい道を右に折れ、駅に向かって歩いていった。向かう先には、星蹟桜ヶ丘の駅ビル。その煌びやかな明かりが見えた。
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