3話:ワンワン・パニック 前編

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「センセイ、さようなら~」  お迎えの時間。園児たちは迎えに来た保護者に手を引かれ、家に帰っていく。 「はーい、また明日ね」  玄関エントランスに見送りに出た想子は、園児たちに手を振っていた。  そこに帰り支度を整えたアオイたち4人がやって来た。 「あ……」  思わず身構えてしまう。  だが4人は想子の前を素通りして、それぞれ迎えに来た母親の元へ駆け寄った。 「ママ!」 「アオイ、良い子にしてた?」 「うん」  そんな会話をしながら4人は帰って行く。  その姿は他の園児たちとなんら変わりない。想子に見せた大人びた(イケメンな)姿が嘘のようだった。 「そっか、私が意識しすぎなだけだったのかも……」  想子はホッとしつつも、一抹の寂しさを感じていた。  園児が帰って片付けを済ませると、想子は美咲(みさき)先生と一緒に園を出た。  時間外保育の時間まで働き、後片付けを澄ませると、帰宅時間は夜の8時頃にまでなってしまう。  あたりはすっかり暗くなっていた。  土手沿いの道を美咲と一緒に歩く。  近くの電柱に張り紙を見かけた。  今朝、登園するときは見かけなかった張り紙だった。 「あれ、これは?」 「迷い犬みたいね」  近所の飼い犬が逃げ出してしまったらしい。 「見つかればいいですけど」 「野犬化したら困るわね。この道、ウチの園児も通るし」  河川敷の方を見た。  外灯のない河川敷は暗闇に包まれている。広い。雑草がうっそうと茂っており、ここから川面までは遠かった。  想子と美咲は土手沿いの寂しい道を右に折れ、駅に向かって歩いていった。向かう先には、星蹟桜ヶ丘(せいせきさくらがおか)の駅ビル。その煌びやかな明かりが見えた。
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