4話:ワンワン・パニック 後編

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4話:ワンワン・パニック 後編

 想子(そうこ)は窓の外を見た。 「これは……!!!」  窓からは園庭が見える。  今の時間は5歳児クラスの『虹組』が園庭を使用中だった。  その虹組の園児たちが園庭を逃げ回っていた。一瞬、鬼ごっこをしているように見えたが、そうではない。園児たちを追い回しているのは黒い光沢のあるなめらかな短毛に覆われた中型犬だ。首輪がある。  昨夜見た張り紙の迷い犬だった。  園庭に迷い込んで来てしまったのだろう。犬は、園児たちの悲鳴や泣き声に刺激されて興奮状態にあった。牙を剥き出しにして唸り声を上げている。危険な状態だ。  虹組の先生たちは、なんとかして園児たちを建物の中に避難させようとするが手に負えないでいた。  想子は美咲先生と目顔で頷くと、掃き出し窓から外に出た。 「いい? ぜったいに窓を開けちゃダメよ。ここで大人しくしててね」  室内の園児たちを振り返ってそう言うと窓を閉めた。  掃き出し窓を出てすぐはウッドデッキになっており、そこから園庭に出る。  犬の吠える声が想子の耳にダイレクトに聞こえて来た。 「!!」  想子は足がすくんだ。  幼い頃に近所の犬に咬まれて以来、犬は大の苦手だ。  だが今はそんなことは言ってられない。 「この、シッ! シッ!」  美咲がホウキで犬を追い払おうとしている間に、想子はにじ組の先生たちと一緒に手分けして園児たちを室内に避難させていく。 「そっち、行ったよ!」 「……えっ?!」  ひとりの園児を室内に入れて振り返った想子は目を瞠った。美咲のホウキをかわして、犬がこっちに迫ってきている。  動物の本能だろうか。怯えている人間が誰だか分かるらしい。標的は完全に想子だった。
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