4話:ワンワン・パニック 後編

3/4
前へ
/173ページ
次へ
 アオイの身体は小さかった。  こんな小さな身体で私を守ろうとしてくれている……。  いくら大人びて(イケメンに)見えても、実際は4歳児なのだ。  大人の庇護のもとにあるべき存在だ。  それなのに私は何をしているのだ!  なんのために保育士になった!  園児を守り、その成長を手助けするのが保育士である私の仕事じゃないか! 「わ、私は……」  想子は震える足を何とか動かし、アオイを守るために前に出ようとした。 「がるるるる」  犬が身を低く構えて威嚇してくる。 「!!」  想子の身体がすくむ。  でも頑張らないと!  想子は両手を広げ、アオイを庇うように立とうとした。  そのときだった。  水飲み場の方から声が聞こえた。 「待たせたな、アオイ。準備完了だ」 「遅いぞ、蒼矢」  水飲み場には蒼矢(そうや)がいた。(ひかる)弓弦(ゆづる)もひょっこり顔を出している。光と弓弦は、それぞれ手にホースを持っている。蛇口に繋がれたそれは、先端には水まきやウッドデッキを清掃するときに使う、トリガー式の高圧洗浄ノズルが取り付けてあった。 「いっくよ~」 「……フッ……狙い撃つぜ!」  2人がトリガーを引く。高圧をかけられた水は、下手な水鉄砲よりも強力だ。興奮している犬に向けて、水が浴びせられた。  犬は思わぬ反撃に驚き、逃げ回る。  やがて逃げ去っていった。 「た、助かった……」 「作戦通りだな」 「考えたのは、この私ですけどね」  メガネのブリッジを上げながら蒼矢(そうや)が言った。  アオイが壁際まで逃げて来たのは、この子たちの作戦だったのだ。水飲み場のそばまで犬を誘い出したのである。  その機転はとても4歳児には思えなかった。
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加