50人が本棚に入れています
本棚に追加
6話:ようこそ、花組へ・前編
藤石想子は両親と実家暮らし。
ほうらい保育園には実家から電車で通っていた。
その日の朝も通勤電車に揺られていた。
通勤電車といっても都心に向かうのとは逆方向の列車なので混んではいない。
乗客がまばらなその車内で幼児の泣き声が響き渡った。
つい反射的に、泣いている幼児の姿を探してしまう。
少し離れたところで、ママさんに抱かれた2歳ぐらいの女の子が泣いていた。
「すいません。すいません」
ママさんは周囲に謝り、肩をすくめて申し訳なさそうにしていた。
想子は近づいていった。
「ちょっといいですか」
「うるさくて、すいません!」
勘違いしたママさんは想子にも頭を下げた。
近くで見ると髪がほつれてて、やつれた印象を受けた。まだ若いと思うが老けて見える。気弱そうに目を伏せていた。
「謝る必要なんてありませんよ。子供は泣くのが普通です。それにこのくらいの年齢だとイヤイヤ期ですからね。泣き出したら止まらないものなんですよ。さあ、こっちおいで」
想子はママさんから、泣いている幼児を引き受けようとする。
「あ、でも……」
断ろうとするママさんに「大丈夫ですから」と答えると、慣れた手つきで幼児を抱いてあやす。
するとピタリと泣き止んだ。
「うそ……?!」
「私、どういう訳か、昔から幼い子供にだけは好かれるんですよ」
驚くママさんに、想子は自嘲気味にそう言って笑っていた。
最初のコメントを投稿しよう!