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「み、美咲先生……」
これでは助けは期待できない。
「ソーコ、どうしたの?」
問いかけてくるアオイの視線から想子は逃げるように顔をそらした。
「わ、私、ちょっと用事が……」
肩にかかったアオイの手を振り払うようにして立ち上がろうとした。
しかしその手を逆に掴まれた。
「逃がさないよ、仔猫ちゃん」
「ううぅぅ……」
だ、ダメ!
このままでは大変ダメなことになる!
だが、すでに腰が抜けたようになっていて、その場に膝を付く。
どうやらイケメンの毒気を受けて、すでに自分も軟体猫化しているのかも知れない。
ま、負けてたまるか……
想子は這いつくばるようにしてその場から離れようとする。
だが出口は遠い。
理性を保とうと、すがるように何かを掴んだ。
それはーーー
「くっ、イケメン退散!!」
叫ぶと同時に、想子は最後の力を振り絞ってそれを力いっぱい引っぱった。
部屋を暗くするために窓に取り付けてあった暗幕カーテンだった。
太陽の光が差し込んでくる。
「うわっ」
暗い場所に目が慣れていたアオイたちは、突然の光に目を覆う。
一瞬にして魔法が解けたかようだった。
夜の空気は消え去り、部屋はいつもの保育園の教室に戻っていた。
どこにもホストクラブっぽいところはない。
「……はっ! 私はいままでなにを?」
教室の片隅で正気を取り戻した美咲先生が、昔話で狸に化かされた人のように、クマさんのヌイグルミに抱きついた状態で呆然としていた。
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