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8話:不審者
「ホストクラブごっこはソーコに不評でしたね」
「ソーコ先生、純粋だからなぁ」
「しょうがない。ソーコに喜んでもらえるものをあらためて考えることにしよう」
アオイたちが園庭でそんな話をしている中、光だけが何か気配に気づいて振り返った。眉間に皺が寄り、眼光が鋭くになる。
「……ムッ……」
「どうした、光?」
「不審者だ」
「不審者?」
アオイ、蒼矢、弓弦は光の視線を追って振り返った。
保育園のフェンス越しに、中を伺いながらソワソワと行ったり来たりしている女性が見えた。
園庭で遊ぶ園児たちの姿を見ていた想子は、アオイたちの行動を見て慌てた。
先日、迷い犬が園庭に入り込んでしまったこともあり、正門は閉じられていた。その門扉をアオイたちはよじ登り始めたのだ。
園から脱走するつもりか?
「まったくあの子たち、今度はなにをしでかすつもり?」
想子は呟くと正門へと急いだ。
※ ※ ※
「おねーさん♥ そんなとこでなにしてるの?」
フェンス越しに園を覗いていた女性は不意に後ろから声をかけられてビクッとした。
振り返ると弓弦が立っていた。
「な、なんでもありません!」
女性は顔を伏せ、慌てて立ち去ろうとする。
だがその行く手をアオイと蒼矢が塞いでいた。
再び後ろを振り返ると、弓弦と光が通せんぼしている。逃げ場は塞がれていた。
「見かけない顔ですね。うちの園児の保護者にはいないはずです」
「さあ、なんの用でウチの園を覗いていたか、教えてもらいましょうか?」
「そ、それは……」
アオイたちに詰め寄られ、女性は返答に詰まった。
そこに想子が駆けつけた。
「ちょっと4人とも勝手に園から出ちゃダメでしょう!」
と、注意してから女性の存在に気づいて「あっ」と声をあげる。女性に見覚えがあった。
「あ、あなたは……今朝の……」
言いかけたとき、幼児の泣き声が上がった。
見れば、幼児が女性の胸に抱かれていた。
今朝、想子が通勤電車で会った母子(※6話)だった。
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