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「みんな、やめて! 私のために争わないで!」
想子は自分を巡って争う園児たちを必死になだめていた。だが争いは収まらない。困り果てたところに、先輩保育士の座安美咲が手を叩いた。
「はいはい。ソーコ先生と結婚したかったら、ケンカはしないこと。ケンカする子は、ソーコ先生とケッコンできないわよ。分かった?」
手際よく園児たちをなだめてくれる。
「はーい」
落ち着きを取り戻した園児たちは遊戯室に散らばっていき、何事もなかったかのように、おのおのオモチャで遊び始めた。
「美咲先生、助かりました」
「なかなかのモテぶりね」
ひと安心して頭を下げた想子に、美咲が半ば呆れ顔で言う。
「大人の男性からも、これくらいモテたらいいんですけどね」
「へー、大人の男子にはモテないんだ」
「はい。どういう訳か昔から、幼い子供にだけは好かれるんです」
想子は苦笑いしながら答える。
「なんだろうね。脇の下から幼い子供にだけ効くフェロモンが出ているんじゃない?」
「なんですかそれ?」
「まあ、良かったじゃない。園児に好かれるってことは保育園の仕事が天職ってことだよ」
「ありがとうございます」
想子はそう答えながらも心の中でため息をついた。
もちろん子供のことは好きだ。
だから保育士になった。
しかしやはり健康的な若い女子としては、ちゃんとした彼氏も欲しいと思う。
子供にだけモテてもね……。
そう思っていた。
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