本当に好きなのは君だけど

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 芦沢はげんなりとした顔をしながら、荷物を持って立ち上がる。蒼多たちも続けて席を立った。 「じゃあまた明日なー!」  会計を済ませて、駅前で待ち合わせしている彼女の元へと先を急ぐ芦沢を見送り、蒼多は那珂川と肩を並べながら最寄駅までの道を歩く。  九月に入ったが日中は夏の暑さを引きずったままで、照りつける日差しも強い。  五分ほど歩き、駅前の交差点で信号に引っかかる。陽を避けるために手を額にかざそうとすると、那珂川に腕を引かれた。連れられるがまま、人のかたまりから少し離れた、開店前の居酒屋の軒下に逃げ込む。  目の前の幹線道路は車通りが多く、いつもより声のボリュームを上げなければ聞こえない。 「なあ、徳永」  しかし、那珂川は声の大きさは変えず、代わりに蒼多の近くに身体を寄せた。肩がしっかりと当たる距離。那珂川の熱に炙られるように心臓がじわじわと動きを速める。 「ど……どうしたの?」  やばい。顔がどうしようもなく熱い。  那珂川は蒼多の顔を見ると、おかしそうにちいさく笑った。 「ほんとに勉強だけなの?」  俺はそれだけじゃ足りねえけど。そう言って那珂川は前を向いた。
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