本当に好きなのは君だけど

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 七時限目の終了を告げるチャイムが高らかに教室に鳴り響く。スピーカーから流れる音はどの時間も同じもののはずなのに、一日の終わりを告げる鐘の音だけがこんなにも清々しく聴こえるのがいつも不思議だった。  帰りのホームルームが終わると、徳永(とくなが)蒼多(そうた)は、机の抽斗(ひきだし)の中身を手早くリュックサックにしまった。部活だりい、アイス食いてえと、周りで楽しげに繰り広げられる会話を背中で聞きながら、教卓の上に積まれた、クラス全員分の国語のノートと日誌を抱えて教室を抜ける。職員室へこれらを届けたら、ようやく日直の仕事が終わる。  私立 奏陵(そうりょう)学園中等部に入学してから五年、これまで蒼多は誰かと別れ際に「またね」と交わしたことがなかった。朝登校してからホームルームが始まるまで勉強、休み時間と昼休みも勉強、家に帰ったら勉強、休日も勉強。おかげで定期テストでは万年学年一位の座を守っているが、学校内では友達はおろか気軽に話せる相手すらいなかった。  けれども、今年、高等部の二年生に進級してから、それが一変した。 「ああ、約束の時間に遅れちゃう……」
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