ものまね芸人の苦悩

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「こんにちはぁっ」 スタジオにどっと笑いが起きる。  ものまね芸人を始めて10年、ようやくテレビに出られるようになったのは数年前だ。最初の頃は鳴かず飛ばずで、誰からも知られていなかった。しかし、コロナ禍になりYouTubeに力を入れるようになると、瞬く間に再生回数が増え人気者となった。そんな僕をテレビ局は見逃さず、SNSで話題のものまね芸人としてテレビに呼ばれるようになった。    周りから見れば順風満帆に見えるかもしれないが、僕には大きな悩みがある。それは誰も僕自身に興味がないことだ。こんなに笑ってくれる共演者でさえも、収録が終わればすぐに楽屋に戻り誰も話しかけてくれない。僕が求められているのは、ものまねの技術だけだ。司会者に振られれば、人気のあるタレントの話し方やセリフを言う。ただそれだけで、僕自身の趣味やエピソードは聞かれたことが無いしこれからもないだろう。    こんなことを考えている間に、番組のエンディングの撮影が終わった。今日も1人で牛丼でも食べに行くか。 「ファンなんです!いつもYouTube見てるんですけど、癒されるし、ものまねだけじゃなくてトークも面白いし!」    それは突然だった。目の前にいる可愛い子が僕に話しかけている。彼女は僕のファンで何より僕自身に興味を持ってくれている。今までも街で声をかけられたことはあるが、「○○の人だ!」と言われるか、ものまねを振られるだけだったのに。驚いて固まっていると、相手はさらに続けた。 「良かったらこのあと一緒にランチしませんか?」 「ぜ、ぜひ、、、!」 夢みたいな話だ。こんな日が来るなんて。 ランチでは会話も弾み、連絡先も交換することができた。そこから僕たちは連絡を取り続け、ついに付き合うこととなった。  こんな可愛い彼女を持つなんて、数年前の僕に言っても信じられないだろう。彼女が欲しい物は何でも買ってあげるし、東京に来たばかりでお金のない彼女にたくさんのお金も渡している。誰が何と言おうと、彼女といられる時間は僕にとって人生で1番の幸せだ!
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