50人が本棚に入れています
本棚に追加
第一話
パパのことをはっきりと意識したのは、熱を出して動けなくなった俺を抱きあげてくれた時のことだった。
大雨と雷がやまない日、俺はパパに抱えられて森の奥にある洞窟に来た。
力の入らない身体を軽々と持ち上げられてびっくりした。俺、もう子どもじゃないのに。
身体だってれっきとした大人だ。それなのに俺を連れて洞窟まで来てくれた。
悪寒に震える身体を包み込む腕はすごくたくましくて、胸がぎゅって苦しくなる。
その違和感は風邪のせいだと思ってた。そう思おうとしてた。
『大丈夫だ、ルカ。俺がついてる』
この森の狼たちをまとめる長、グランが言うんだから、きっと大丈夫。
それでも俺は不安で、パパのぬくもりを求めて顔を胸にこすりつけた。
パパの身体は筋肉に包まれていて、俺よりも“雄”らしい体つきをしてる。
ピンと立った耳もふさふさのしっぽも真っ黒で、艶々していてかっこいい。
俺はというと耳もしっぽも白に近い灰色で、なんだかパッとしない毛色だ。
――ああ……パパはかっこいいなぁ。
雨で濡れた前髪が色っぽいし、金色の目には吸い込まれてしまいそうな力を感じる。
大雨や風、雷の怖い音がいっぱい聞こえてきて不安になっていても、パパがいたら大丈夫。
『ぱ、ぱ……』
『今は眠るんだ』
頭を撫でてくれる大きな手。胸のぬくもり。聞くだけでドキドキする低い声。
俺はパパのことが、俺たち狼の長、グランが大好きだ。
最初のコメントを投稿しよう!