第0話 引きこもりのイゴル

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第0話 引きこもりのイゴル

 俺イゴル・ボルストは、確かに引きこもりだった。  だが、それは皆が思っている程に長いわけではない。  とはいえ、何故俺が引きこもりになったのか……。  簡単に言えば、皆が王立上級学校を卒業していく中、俺は突然退学処分を受けて学校を去ることになったからである。  理由は今となっても判らない。ギリギリだったが赤点を取ることも無く、不良生徒のように振舞ったつもりもないはずだ。  だから、突然の退学処分に驚いたことを、今でも覚えている。  だが、それよりも鮮明に覚えていることがある。  退学処分が決まった俺に対する……周りの者たちの態度だ。    元々俺が嫌われていたのかは判らない。しかし、退学処分が決まったことが周知された途端に、周りの者たちは俺に対して露骨な態度を取るようになってきたのである。  それは、同じ学校の生徒たちだけではない。学校外の知り合いや、近所の住人たちも含む。噂というものに、恐怖を感じたことも覚えている。  それがトラウマとなり、俺は退学後直ぐに引きこもりになった。  だが、自宅もまた心落ち着く場所ではなかったのである。当然、近所の住人たちの目があったからだ。それに、ずっと家の中にいると、とても退屈で苦痛だった。しかし、外へは出たくないとも思っていたわけだ。  この2つの矛盾する精神状態が続いていたわけだが、ついに均衡が崩れたのだろう。  ある日、俺はただ逃げる思いで、家出をすることを決心した。  夜中に自宅を出て、ホームレスなどが多い地区へと逃げ込んだのである。今ではホームレスの姿はあまり見られないが、当時は、とても多かった。  ※  あれから数年が経つ。  その数年の間に、俺は生死の境を何度も潜り抜けながら、今日もまだ生きている。もはや、大抵の事では死ねなくなっただろう。  そして、今は個人的な理由のため冒険者になった。親友だったオーガスト……彼を殺した奴を探すためである。  そのために冒険者に登録したのだ。  無論、賭けのような要素は否定できないが、現状ではそれしか思いつかない。  冒険者など直ぐに辞めるつもりなのだが、今俺は『脱兎の耳』というパーティに所属している。リーダーを務めるデニスという有望株に、強引に勧誘されたためだった。  なら、しばし冒険者生活を続けても良いと思った。  ところが、ここにきて俺はパーティを追い出されそうになっていたのである。
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