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散歩日和
桃子にとって、ひとりでいたいと思うときは、そうめったに訪れるものではない。年に数回、あるかないかである。そんな貴重な日に限って、近所で一番にぎやかな人が訪ねてくるのだから笑ってしまう。桃子は腰かけていたガーデンチェアから立ち上がって、玄関の方へ歩いていった。
くすんだ緑色の扉前。怒り肩の中年女性が、庭から現れた桃子に気づき、唇をとがらせた。
「やだ、桃子さん。いるならいるで早く返事してくださいよ。どこかで倒れているかと心配したじゃないですか」
「ごめんなさいね、仁美さん。庭木を眺めていたらなかなか動けなかったのよ」
「そんなのいつでも見られますよね? まったく人の気も知らずに……」仁美はぶつぶつこぼしながらも、両手で抱えていた段ボール箱を桃子に見せる。「しょうがと小松菜とかぼちゃがたくさん採れたのでお裾分けです。良かったら食べてください」
「あらまあ。いつもすみません。助かるわ」
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