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「ね、ローン無くなるよね? 団信入ってたら」
「そ、そうだね……」
誰も答えないからって、私に同意を求めないで! こんなに目線合わせてないのに、気付いてよ!
みんなの冷たい目線が突き刺さる。やめて! 私を巻き込まないで!
「小山さん、いい加減にしなさいよ!」
大きな声でその場を沈めたのは、パートのボス杉山さんだった。
「不謹慎にも程があるわ! 口にしていいこと悪いことも分からないの?」
杉山さんはご立腹のまま作業場へ降りていった。静まりかえった更衣室は、着替える服が擦れる音だけ聞こえていた。
小山さんもさすがにばつが悪そうな顔をしていたが、その場にいたみんなは小山さんを見ないようにした。私だけではなくみんなもそうだと思うが、杉山さんよく言ってくれたと、心の中はガッツポーズだった。
しばらくしたら更衣室でポツポツと話す人も出てきた。誰も畠中さんの話題はもう口にしなかった。
「ボス怖〜い。みんないるのにあんな言い方しなくてもいいよね」
小山さんが独り言のように言った。もう誰も小山さんに答える人はいなかった。
みんなが一斉に葬儀に出たら仕事が回らなくなるので、お通夜だけ参列しようとパート仲間で話し合った。小山さんは誰も誘おうとしなかった。
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