さようなら

10/12
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「ね、ローン無くなるよね? 団信入ってたら」 「そ、そうだね……」  誰も答えないからって、私に同意を求めないで! こんなに目線合わせてないのに、気付いてよ!  みんなの冷たい目線が突き刺さる。やめて! 私を巻き込まないで! 「小山さん、いい加減にしなさいよ!」  大きな声でその場を沈めたのは、パートのボス杉山さんだった。 「不謹慎にも程があるわ! 口にしていいこと悪いことも分からないの?」  杉山さんはご立腹のまま作業場へ降りていった。静まりかえった更衣室は、着替える服が擦れる音だけ聞こえていた。  小山さんもさすがにばつが悪そうな顔をしていたが、その場にいたみんなは小山さんを見ないようにした。私だけではなくみんなもそうだと思うが、杉山さんよく言ってくれたと、心の中はガッツポーズだった。  しばらくしたら更衣室でポツポツと話す人も出てきた。誰も畠中さんの話題はもう口にしなかった。 「ボス怖〜い。みんないるのにあんな言い方しなくてもいいよね」  小山さんが独り言のように言った。もう誰も小山さんに答える人はいなかった。    みんなが一斉に葬儀に出たら仕事が回らなくなるので、お通夜だけ参列しようとパート仲間で話し合った。小山さんは誰も誘おうとしなかった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!