さようなら

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「小山さんって、ちょっとうっとおしいよね」  その日、ペアで仕事をしていた長谷部さんが、ボソッとつぶやいた。 「あんた聞いても絶対分からないでしょって話なのに、『なになに、何の話?』って絶対割って入ってくるし」 「あ〜」と言いながら、何度も頷いてしまった。 「あと、話し始めが人と被っても絶対引かないよね。普通同時にしゃべったら話すの一瞬止めるでしょ」 「分かります。そういうとこありますよね」 「尾崎さんって素直に小山さんの話聞くから、めっちゃ好かれてるけど、気を付けたほうがいいよ。小山さん、ボスにも遠慮なく言っちゃったみたいで、ボスに目を付けられてるって」   「えぇぇぇ……」  パートのボスと呼ばれている杉山さんは、パートの中でも一番の古株。課長でさえ言いくるめられるほどの強い人。私には普通に話してくれるけど、時々怒鳴ったりしてるのは見たことがある。 「あの人に目を付けられたら、ここにはいられないよ。(じき)に辞めるかもね」  長谷部さんの話を聞いて、かわいそうにと思いつつ、どこか安堵している自分がいた。  仕事が終わり、更衣室を出てから小山さんに引き止められた。小さいため息をついて振り向いた。 「お疲れ〜。今日聞いたんだけど、配送課の吉永くんと事務の西島さん、付き合ってるんだって! 知ってた?」 「へぇ、そうなんだ。若いっていいね」  「吉永くん、前の彼女中絶させたらしいよ」  帰りが一緒になってしまったことを悔いても、もう手遅れだった。早く自転車置き場へ行きたい。そしてさっさと帰ってしまいたい。
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