さようなら

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 今思えば、出会った当初から違和感はあったのかもしれない。   「あ、尾崎さんですよね。東川小学校の」 「あ、はい」  スーパーで買い物中、急に見知らぬ女性に話しかけられた。全然見覚えがなくて『どちら様で?』と、脳内の隅から隅まで記憶を探した。 「私、小山です。東川小の五年に子供がいます」 「あ、そうなんですね。うちの子は三年だから、他の学年の子まで知らなくてすみません」  五年生のお母さんが、一体何の用? うちの子何かしたのかな。ドキドキしながら顔を見た。やっぱり記憶のどこにも小山さんはいない。 「私、PTA執行部でママさんたちの話はいろいろ耳にするんですよ。尾崎さん、白井食品で働いてるんでしょ?」 「はい、パートに行っています」 「今仕事探してるんですよ。前の仕事辞めちゃって。白井食品って今パート募集してますか?」  それで私のことを知っていたのか。そう思うと少しホッとして気を許してしまった。 「はい、大体いつでも募集していますよ。人手が欲しいって言ってたからすぐ採用されると思いますよ」 「え、本当ですか! 良かった〜。白井食品の電話番号分かりますか?」 「はい、ちょっと待ってください」  ガサゴソとカバンからスマホを取り出した。そして小山さんに職場の番号を教えた。 「ありがとね。採用されたら、また職場でね」 「はい、じゃあまた」  後日、職場で小山さんのタイムカードを見つけて、無事採用されたことを知った。
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