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 もちろんカーティスが巷で聞く噂のような冷血な人間でないことは、仮初とはいえ彼の伴侶として傍にいたこの一年でよく知っている。  しかし、オーデル国を長き戦争から救った英雄として称えられるその凄みは、時に威圧感を生み出すものだ。  怯えるダリルに気づいたカーティスはハッとして「すまない」と自身の態度を恥じ入るように謝った。 「別に怒っているわけじゃない。ただ、君は本当に私のことなんか少しも眼中にないのだと思ったらつい……」 「え?」  視線をそらし、口元に当てた手の中で苦々しく呟くカーティスに、目を丸くする。  カーティスはゆっくりと顔を上げ、先ほど零した弱々しい呟きなど吹き飛ぶほどの毅然さで真っ直ぐダリルを見た。 「君はこの一年、カイルの母としてよく頑張ってくれた。そのことにはとても感謝している」 「いえいえ、別に私は大したことはしてないですよ」  謙遜ではなく、事実、カイルの母親代わりの役目は特段大変なものではなかった。むしろカイルと過ごす日々は楽しいものだった。  それに家から勘当され帰る場所のないダリルの方こそ、契約結婚とはいえ屋敷に置いてもらい、いくら感謝しても足りないくらいだ。   (それにしてもオメガとはいえ、男の自分が母と言われるのはやっぱり違和感があるな……)  ダリルは胸の中で苦笑した。  アルファ、ベータ、オメガという第三の性が存在するこの世界ではオメガに限り男性の妊娠は可能で、男性の母親というのも珍しいことではないのだが、この世界とは全く異なる世界の前世の記憶を持つダリルとしては、どうにも抵抗がある。 「どうした? 何か気になることでもあるのか」 「あっ、いえ、別に。カイルと過ごした日々を思い出して懐かしんでいただけです」  ダリルは慌てて胸の内の呟きを誤魔化すように笑った。 「ところで、契約延長の理由は何ですか? もしかしてカイルが寂しがるからとかですか?」
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