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 ぼそぼそと苦い声でカイルが言う。その赤みがじわりと滲んだ頬に、ダリルは柔らかく微笑んで頷いた。 「分かりました。では、俺が確認させてもらいますね」  ダリルは天眼鏡を構え、書類と手紙をじっくり見比べた。  本当は見比べるまでもなく、その手紙がカーティスからであることは分かっている。  だが、確固たる証拠を提示しなければ、この臆病な疑り深さを持つカイルを信じさせることはできないだろう。  ダリルは一文字一文字丁寧に天眼鏡越しに見つめ、二つの筆跡の共通点を必死に探した。  その様子を隣で固唾をのんで見守るカイルは、年齢相応の子供らしさがあり、そんな彼を視界の隅に認める度に、ダリルは微笑ましい気持ちになり密かに目元を綻ばせた。  十分に二つの筆跡を見比べてから、ダリルは静かに天眼鏡を机に置いた。 「――カイル様、やはりこれはお父様の文字で間違いないようです」 「……!」  一瞬、パッと表情を明るくしたカイルだったが、すぐにそんな自分を戒めるように眉間に力を込めて「どうしてそう思う?」と聞き返してきた。  ダリルは待ってましたとばかりに、文書と手紙をスッとカイルの前に差し出した。 「まずこのスペルですがバランスに癖があります。あと、このスペルも――」  二つの筆跡を見比べる中で気づいた分かりやすい共通点や文字の癖を指さしながら説明していく。説明が進むに連れ、カイルの眉間から懐疑の色が引いていくのが見て取れた。   「……じゃあ、本当にお父様が書いた手紙で間違いないんだな」  ダリルの説明を聞いて、カイルが最後の確認とばかりに訊いてきた。期待の中にまだ臆病の色を僅かに見せるその瞳に、ダリルはしっかりと頷いて返した。 「ええ、もちろんです」  ダリルが力強く断言すると、カイルはまるで壊れ物に触れるかのような手つきでカーティスからの手紙を手に取った。  そして、嬉しい戸惑いを滲ませた視線で手紙の文字を再度辿ると、ぎゅっと手紙を抱きしめた。
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