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 学園の生徒が手紙のやり取りをしていた外部の恋人と、駆け落ちしてしまったからだ。  これは貴族の子供を預かっている学園側としては大失態である。そのため、同じことを繰り返さないよう、外部との手紙のやり取りは両親の許可がある者に限定されてしまったのだ。  当然、可愛い我が息子が疎ましい前妻の子に懐いているのが前々から気に入らないネイトの母が、ダリルとの文通を許可するはずもなかった。  そうなると、ダリル宛の便りが来ることなどほとんどなく、ここ最近まで手紙入れの小箱はさみしげに棚の隅で眠っていた。  だから、こうして小箱の中身がまた増えるなど予想だにしていなかったダリルは、カーティスからの手紙を仕舞う度についつい頬を綻ばせてしまうのだった。 (……一時の気まぐれだったとしても、やっぱり嬉しいな)  定期的に送られてくるカーティスからの手紙に戸惑いつつも、来なくなったらそれはそれで寂しく思うだろう。  それは単なる使用人の自分が抱く感情としては贅沢なものなのかもしれないが……。 (まぁ、来なくなっても何かを失うわけじゃない。今まで通りになるだけだ)  ダリルは自分に言い聞かせるように胸の中で呟きながら小箱の蓋を閉めた。そしてそれを棚に戻すと、ベッドに腰を下ろした。  寝る前にカーティスからもらったオイルを塗ろうとしてベッド横の棚に手を伸ばしかけたが、小瓶の中身を見てその手を止めた。 (……あと半分でなくなりそうだな)  カーティスがくれたオイルのおかげでだいぶ肌荒れはよくなった。きっとこれを使い切る頃には綺麗になっているに違いない。  だが、ダリルはこのオイルを使い切ってしまうことを惜しく感じ始めていた。  空になったオイルの小瓶と、埃を被って棚の隅で眠る手紙入れの小箱。それら二つを想像すると、胸の底に寂しさが薄っすらと漂うのだ。  ダリルは少し考えてから再び腰を上げ棚に向かうと、小瓶を小箱に入れた。
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