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「そうか、それならよかった」 「はい、本当にありがとうございます」 「よければ、手を見せてくれないか?」 「え?」  思いもよらない言葉に目を丸くする。 「どれくらい効果があるものなのか見たい」  そう言ってカーティスが手を差し出した。  この会話の流れでまさか嫌だとは断れない。  ダリルがおずおずと手を差し出すと、カーティスはその手を取ってじっと見つめた。 「……あまり効果がなかったようだな」  少し悲しげな落胆を含んだ声で言ったので、ダリルは一層後ろめたい気持ちになり、慌てて首を横に振った。 「効果がないなんてとんでもないです! 塗った翌日から効果がありました! ただ、途中で使うのをやめてしまって……」 「もしかして肌に合わなかったのか? もしくは匂いが苦手だったとか……」 「いえっ、とんでもありません! とてもいい匂いでとても気に入っています」 「じゃあ、どうして使うのをやめた?」  責める風ではなかったが、宝石のように美しい緋色の瞳にじっと見据えられつい怯んでしまう。 「えっと、それは……」  目を泳がせながら返答に迷うダリルだったが、正直に話すしかないと腹を括った。 「その……、すごくいい香りで、使い切ってしまうのがもったいないと思って……」  ぼそぼそと羞恥を滲ませた声でダリルが白状すると、カーティスは少し目を見開いたが、すぐにその目尻を緩めた。 「君は歳の割にしっかりしていると思っていたが、そういった子供っぽいところもあるのだな」 「す、すみません……」 「いや、謝ることはない。だが、オイルは毎日塗りなさい。これでは贈った意味がない」 「は、はい……」  もっともな言葉に恥じ入りながら肩をすぼめる。そんなダリルに、カーティスが微かに笑った。 「心配しなくとも、また同じものを贈ろう。だから安心して使い切りなさい」 「えっ」  思いがけない言葉に顔を上げると、カーティスは気持ちいつもより柔らかな表情で頷き返した。 「君には私もカイルもお世話になっている。そのくらい当然だ」 「いえいえっ、とんでもないです! あの、本当にお気遣い頂かなくて本当に大丈夫です!」  これではまるで催促してしまったようだ。ダリルは慌てて首を横に振った。
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