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「それで嫉妬したということか? 聞き苦しい言い訳だ。それで許されていると思っている貴様の心根が醜い。そもそも、俺は貴様など一度も愛したことはない」
「そ、そんな……っ」
冷たく浴びせかけられた言葉に目を見開き、ダリルはその場にくずおれた。もちろん全て演技である。
「そんなひどすぎる……っ」
顔を覆って泣くダリル。そんなダリルを見下ろすアルフレッドの目はますます冷たいものとなり、唾棄するようにハッと吐き捨てた。
「ひどいのはそっちだろう。可愛いフィルを傷つけて。しかもこの間は、階段からフィルを突き落として――」
「アルフレッド様」
今まで碧い瞳を潤ませ二人のやり取りをアルフレッドの腕の中で静観していたフィルが、遮るようにして言った。
「もう、おやめください。ダリル様がお可哀想です。確かに僕はダリル様に嫌がらせをされました。でも、それはダリル様がアルフレッド様をそれだけ愛しているということです。人を愛すると嫉妬心が出てくるのは当然のことです。ただ、今回はそれが行き過ぎたということで……」
「フィル……! お前は何と優しい!」
感極まった様子でフィルを思い切り抱きしめるアルフレッド。
「姿だけでなく心までまるで天使のようだ」
「そ、そんな、僕はただ当然のことを言ったまでで……」
フィルはアルフレッドの腕の中で恥じらうようにその頬を淡く染めた。
(あー、はいはい、そういうのはあとでいくらでもやってくれ)
顔を覆う指の隙間から二人の甘いやり取りを見ながら、心の中で毒を吐く。もちろん嫉妬心からではない。早くこの茶番から解放してくれという気持ちからだ。
フィルはアルフレッドから離れると、ダリルの前まで歩み寄り片膝をついた。
「ダリル様、大丈夫ですか。よければ僕の手を」
差し出された白く美しい手と、天使のような美貌に浮かぶ微笑みに目を剥くダリルだったが、すぐにその顔を険しく歪めた。
「……ッ、お前如きが僕に同情するな!」
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