怒らせてばかりの出来事

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「あ、あの… 申し、訳な、い… 。」 「おまえ!知らない奴に余計な事を喋るな!」 高校の同窓生と言おうとした事を怒っているのが分かったけれど、こんな風に怒鳴る榊は初めてで、酷く困惑した。 再び片付けを始めた榊だったが、怒りが収まらない様でガチャンガチャンと大きな音を立てて片付けをしている。もう一度謝ろうと、声を出した。 「あ、あの… 榊… 本当に申し訳… 」 「お前!本っ当に!そういうトコ!疎過ぎるんだよ!」 あまりの剣幕に謝ろうとした声も出なくなってしまう。 「あ… 」 「あの男!お前を狙ってただろう!そんな事も分からないのかっ!」 キツイ目で俺を睨みつけると、大きくため息を吐いた。 俺はどうして良いか分からずに、三人組が使っていた食器を下げたり、テーブルを拭いたり位置を整えたりしながら、横目でチラリチラリと榊の様子を伺った。 怒っている。かなり不機嫌そうな顔で眉間の皺が凄い。 「お前さ、自分に好意を持つ人間に対して、本当に無頓着過ぎるぞ」 俺の顔を一切見ずに、片付けを黙々と続けながら静かに言うと 「悪い、怒鳴ったりして」 小さく謝られて、更に困った俺。 「… 代金も貰えなくなってしまって本当に申し訳ない」 漸くそう言えたのだが 「そういうこと言ってんじゃねーよ!!」 また怒らせてしまい、怒鳴られて反射的に首を竦め、テーブルを拭いた布巾を手に、その場から動けない。 「今日は俺の家に来い」 「え?」 なんて?なんて言った? 持っていた布巾を落としてしまう。 「あの男がお前の跡を付けるかもしれない、家を知られたくないだろう?」 それはそうだが、榊の家に来いと言われて思考が完全に止まってしまう。 「あ、でも… 榊に迷惑を掛けてしまう… 」 「っるっせーな!跡つけられていいのかよっ!」 またまた怒らせてしまった。布巾を拾ってまたテーブルを拭き続けた。 「雨、酷くなってんな」 段々と雨足が強くなる空を見上げてチッと舌打ちをする榊。 お互いに傘を差し、歩く度にバシャバシャと音を立てる足元には、二人とも気を取られる事もなく早足で進んだ。 榊の家は店から十分程の場所にあり、割と大きめのマンションで同じ歳の人間が一人で住んでいると思うと羨ましく思える建物だった。 「風呂、沸かすから」 傘が役に立たない程の強い雨で、十分も歩けば靴も服もビショビショになり冷たい雨が身体を凍えさせた。 拭くようにと大きなバスタオルを投げつけられる。 まだ怒っているのだろう、俺は何も言えずに凍えながら、黙ってタオルで身体中を拭きながら部屋の中を見回した。 広めの1LDKは綺麗に片付けられていて、無駄な物は無くこざっぱりとした様子が、余計にお洒落な部屋に見せていた。部屋さえも榊らしい。 「沸いたから入れよ」 部屋をマジマジと見ていたところに来たので少し焦る。 「あ、ああ… ありがとう… 」 洗面台のある脱衣場に俺を案内すると、いきなり榊が服を脱ぎ始めた。 えっ!?一緒に入るの!? 「お前も脱げ。一時間もしたら乾くから、洗っちまうわ」 あ、そういう事か、一人で顔を赤くした。 洗濯機に服を入れて、下着まで脱がされた俺は慌ててタオルを腰に巻いてその場に佇んでいると 「早く入れよ、次、俺も入るんだから!」 と急かされ、「わ、わかった、すまない… 」と浴室に入った。 怒らせてばかりだ、と酷く落ち込み項垂れると、扉の向こうから声がした。 「ちゃんと、あったまれよ」 優しい声に涙が滲んだ。
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