初めての朝と二人の関係

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初めての朝と二人の関係

目が覚めると、隣りに修司はいなかった。床に投げ出されていたバスタオルを腰に巻いて、恐る恐る部屋の扉を開けると、部屋中にコーヒーの香りが漂う。 「おぅ、慶人、起きた?」 まだ慶人と呼ばれ、キュンとして頬が赤らむ。 「あ、ああ… 」 そう答えた後に酷い身体の痛みで顔を歪めた。身体中が痛い、どんなに厳しい剣道の稽古の後でも、こんなになる事はなかった。きっと昨夜のせいだ、そう思って嬉しいやら恥ずかしいやらで顔が紅潮した。 それよりも何よりも 「ケツが痛い、修司」 ケツを押さえた俺にか、修司と呼んだ事にか、珍しく修司が顔を赤くにしたから、俺は何だか幸せでいっぱいになった。 ✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎ それから俺と修司は幾度となく身体を重ねた。修司が好きな俺はこれ以上ない幸せと悦びで、淫らに腰を振る。 何度目かのセックスの後に修司が言った。 「お互い、気を遣わないセックスで楽だ。女だと前戯だの、ああしてやんなきゃ、気持ちよくしてやんなきゃって考えるじゃん?慶人とならそういう事考えなくていい」 女とした事がないから分からないし、少なくとも俺は、修司が気持ち良くなるようにと考えているけどな、と思う。 店に行き、修司の都合が悪い時には「もうすぐ終電だぞ」と言われ、帰る事を促される。俺が都合悪い時には「終電だから帰る」と言う。 とは言え、俺が「終電だから… 」と言葉に出した事は殆ど無い。 修司に「好き」だと言われていないし、あの時『俺の事、好きだろう』の修司の問いには答えていない。 俺達の関係は、ただのセックスフレンド、セフレだった。修司の性欲を満たすだけの、俺はただの相手である事は分かりきっていた。 それでも修司が大好きで仕方ない俺は、そんな関係でも傍にいたいと願ってやまない。 「もうすぐ終電だぞ」 そう言われた後は、暫く修司の店に顔を出すのは憚われた。 女が出来ている筈だったから。 暫くすると 『たまには飲みに来いよ』 とメールが来る。 それは女と別れたしるし。 サイクルは短い、一、ニヶ月程度でメールが来る。いつも長続きのしない恋愛を修司は繰り返していた。 馬鹿な俺は、そんなメールに唇を噛みながらも、ほんの少し軽い足取りで修司の店にまた向かってしまう。 俺はセフレになりきった。 修司に女が出来てもスマートに、別れた後に呼び出された時も何でもない様に、修司との関係が切れないように、セフレになりきって修司との情事を続けた。 容姿端麗で何事もそつなくこなす、完璧過ぎる修司の、唯一の欠点は下半身のだらし無さ、それ以外は俺の心を全部飲み込んでしまうのだから、どうにもならない。 ✴︎✴︎✴︎ 俺がもうすぐ新社会人になる頃。 「もうすぐ入社式だな」 「ああ、これで俺も修司と同じ立場になれる」 そういって微笑むと、ん?と眉を上げた。 「修司と同じ社会人に漸くなれる」 「ああ、そういう事か」 何でもない様に修司は笑ったが、俺には大きな事だった。もう、学生ではない。 大企業ではないが言えば皆が知っている会社の営業で春から働く。 修司への想いが、学生としてではない事で、その重さが違ってくる様な、そんな気がした。
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