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初めてスーツ姿を見せたのは、入社式があった日。入社式を終えて、そのまま修司の店に寄った。
「食事に行かないか?」と同期の仲間に声を掛けられたけれど、その日はどうしても修司に会いたかった。
「…… 慶人… 」
俺のスーツ姿を見て、絶句をする修司に少し照れ臭さを感じて上目遣いで視線を送った。
「何だよ、それで今日一日いたのかよ」
カウンターから出てきて、俺の身体中をパンパンと叩いた。
「明日からもこれだ」
顔を紅潮させてそう言うと、修司は悔しそうな顔をした。
「誰にも見せなくねぇな」
俺の肩から腕に何度も手を滑らせて言う。そんな風に言われると、想ってくれているのかと勘違いしてしまう。
「今日、部屋に来るか?」
見たことの無い俺のスーツ姿を見て、欲情したのかそんな事を言った。
「あ、明日も早いから… 」
そんな修司に俺の身体は反応してしまったが、理性が何とか抑えてくれた。
「この時間ならまだ店もやってるから、ワイシャツの替え買ってくればいいじゃん」
俺の目をジッと見て離さない瞳に吸い込まれる。
「朝、早いから… 」
視線を外して漸く言ったが、
「ヤらないよ、傍にいてくれればいい」
外した視線の先に顔を持ってきて、俺の顔を憂いを帯びた表情でジッと見つめる。
「じゃ、じゃあ、先に部屋に行っていていいか?」
「ああ!ちょっと待って、鍵渡すから」
直ぐに満面の笑みになり、奥へ引っ込むと部屋の鍵を持って来る。
「疲れてるだろう?風呂入って休んでろ、な」
嬉しそうに俺の頬を優しく両手で包む。
ふと見せる優しさが俺を雁字搦めにする。修司に抵抗出来ない自分が口惜しい。
駅前に戻り、ショッピングモールに行ってワイシャツを購入する。下着は何枚か修司の部屋に置いてあったから買わなくても良かった。
馬鹿だな俺は… しみじみそう思いながら修司の部屋へ向かう。
いつも綺麗に片付けている部屋なのに、こと、女に関しては雑だった。ベッドの横のサイドチェストにピアスが置いたままだったり、洗面所にはピンクの歯ブラシが修司の歯ブラシと一緒にコップに並んでいる。
そんな物を見る度に俺の胸はズキンと酷く音を立てて、いつまで経っても見慣れてくれる事は無かった。
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