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やはり、どうしたって…
「よぉ、いらっしゃい!」
久し振りに見る修司の嬉しそうな顔に出迎えられる。
「あれ?何?今日、休みだったのか?」
一度家に帰った。彰さんには『急用が出来た』と食事の約束の断りを入れ、修司の店にも行かないつもりで、一度家に帰った。
それでも情け無い… 修司に会いたくてスーツを着替えて店に来た。
「いや、休みではない。久し振りだな」
俺のこの言葉には、女と別れたのか?の意味が含まれている。
「会いたかったぜ」
まだ他に客がいるので、出来得る限りの優しい笑みを俺に見せた。
いつもの様に酒を飲み、修司お任せの食事をする。『俺は最低だ』そんな言葉が頭の中で何度も連呼された。
閉店し、客もいなくなると修司が俺に抱きついた。久し振りの修司の温もりと香りに、抱き付き返しそうになる。
「今日は、帰る」
彰さんに対する、最大限の償いのつもりだった。
「なんで?」
修司に誘われホイホイと顔を出す俺の、今までにない態度に修司は怪訝な顔をする。
「放っておいたから、意地悪言ってんの?」
ニヤっと笑い、そう言って首筋にキスを落とす為に唇を寄せた時、修司が止まった。何処かを見ている。次に、着ていたパーカーの襟ぐりを思い切り伸ばして中に見入っている。
ああ、彰さんが付けたキスマークだと、直ぐに分かった。
どの位の時間だろうか、俺と修司は動かずにその体勢で固まったまま、まだ消していない店内の音楽に聴き入る。曲名は分からない、外国の唄で、寂しげに聴こえてしまって俺の目に涙が溜まった。
ドクン、ドクンと心臓の打つ音が聞こえる。
「ウチに来るだろ?」
それでも修司は面白くなさそうに言い放ち、掴んでいたパーカーの襟ぐりを離して、片付けを始めた。
「いや、今日は… 」
「来るだろ?」
明らかに不機嫌な声。俺の心を雁字搦めにする。
今、断ったら、もう二度と修司に会えなくなるかも知れない、そんな不安が俺の首を縦に振らせた。
でも、身体中はキスマークや爪痕だらけだ、どうする? 俺、どうする?
どうにも考えつかなくて、目を瞑って涙を堪えて、唇を噛んだ。
ひと言も話さない修司の顔色を見ながら、片付けを手伝った。
二人黙ったまま修司の部屋へ向かう途中、
「何?お前もやっと女に目覚めた?」
少し揶揄うように、探るように徐に訊いてきた。
女?そうか、そうすればいいのか。修司は好き勝手に女を作っているのだから。
「… あ、ああ。激しくて驚きだが」
身体中のキスマークを見られるだろうから、前もって言っておく。話しがそんな流れになって良かった。
「どう?挿れる方は」
「… う、ん… まぁ… 」
女性とは経験が無い。これ以上訊かれたらボロが出そうでホッとしたのも束の間、嫌な汗が流れた。
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