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お互いに部長ということで、榊との関わりはそこそこあり、その度にドキドキする胸に困る。いつの間にか榊を目で追っている自分に気付いた。
このままでは変な風に思われてしまうと、意識すればするほど目が勝手に榊の方へ動いてしまってどうにもならない。
そうだ、と良い事を思い付く。
「春名、なんで面だけ付けてんの?」
まぁ、ツッコまれるとは思った。
胴着は付けていないのに、ずっと面だけを付けていたのは、視線がバレない様にで、それをいい事に更にずっと榊を見続けていた。
「面を付けた状態での視界に慣れる為だ」
それらしい事を言って、訊いてきた仲間に答えたが、
「今更っ!?お前、何年剣道やってんの?」
(十年以上だ)心の中で答える。
「面だけって、ウケるな、格好悪いぜ」
仲間がガハハと笑ったが、どう思われても仕方ない、榊への想いがバレてしまうなら格好悪さなんて二の次だった。
俺はもう、榊に恋をしている自分を認めた。
榊は異様にモテる。当然だ、あのルックスに運動神経抜群で話も面白いし粋でお洒落で… 上げたらキリがない。だからいつも隣りには彼女がいた。何人も直ぐに変わっている様で、唯一その辺だけは少しのだらし無さを感じたけれど、榊に失望する事など微塵もなかった。
「最近、俺ら良い感じだよな」
部室で最後になり、帰ろうとした時に榊に声を掛けられた。ドクンッと胸が鳴る。
「えっ!?俺ら?」
俺達の事?どういう意味だろう、狼狽えや混乱が凄まじい。
「ああ、剣道部とバレー部」
俺の狼狽えには気付かなかったのか、爽やかな笑顔を見せて言う。
ああ、部活の事か、何だ、驚くじゃないか。慌てて引き攣った顔で、掻いた変な汗を拭った。
「そ、そうだな… 全部榊のお陰だ」
少しでも諍いが起きそうな時には、すかさず榊が間に入り上手く丸めていた。そのお陰で随分と仲良く円滑に部活動が出来て助かった。
「んな事ねぇよ。春名だって随分と気ぃ遣ってくれてたじゃん」
榊にそう言われて、そう見て貰えていて嬉しくて胸が弾む。
「う、うん… あ、いや… 」
顔が紅潮して、なんと答えて良いやら、はっきりとしない言い方になってしまって、目の前の榊が眩し過ぎた。
◇◆◇
「次の大会で引退だな」
高校三年生。
そう、次の大会の負けた時点で俺も榊も引退になる。こんな風に話す事も無くなってしまうのかと思うと胸がギュッと痛んだ。
「お互い、インターハイまで行けるといいな」
バンバンと腕を叩かれ、目が泳ぐ。榊を見るだけで苦しくて嬉しくて切なくて心が高鳴る、そんな感情に踊らされた。
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