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懐かしい話や、現在の話に花が咲き三人でしこたま飲んで、それはそれはご機嫌になった。
俺に彼女がいるいないは、二人にとってどうでも良かった事のようで何だよ、とは少し思う。
「リエさ、榊くんとどこまでいってた?」
「ど、どこまでって?」
質問の意味が分かっているだろう田沢さんが、モゴモゴと訊き返している。
「キス、した?」
二人の会話を聞いていいのか困ったが、ここで話しているのだから遠慮する事はないだろう、メニューを見る振りをしながら俺の耳は大きくなって二人の会話に聞き入る。
「あんたは?」
「リエが先に言いなよ」
「じゃあ、いっせいのせっ!で… 」
「「いっせいのせっ!」」
「「してない!」」
してないのかっ!俺の顔が綻んだ。
「手ぇ、繋いで歩いただけ… 」
「私も… 」
しょんぼりとしている二人に「まぁまぁ、飲もうよ」とご機嫌になった俺は二人の手元に、運ばれたばかりのサワーを置いた。
「もう一軒行こうよ!」
「行こう!行こう!」
店を出て、俺の腕を掴んで振る。修司の話も随分と出た。かなり酒を飲んでいた事もあってか、修司が恋しくなる。
「じゃあ、修司の店に行こう!」
酒で赤らんだ頬で、二人の前で手を上げて修司の所へいこうと提案する。
「えー!? 榊くん、お店やってるの!?」
嬉しそうに驚く声に笑顔で応えて、さぁ、こっちこっちと手招きする俺は、完全な酔っ払い。
「いらっしゃ〜い」
扉を開けて聞こえた修司の声、次の瞬間、目を剥いたのが分かった。
「きゃあ〜!榊くーん!久し振り〜!」
「やっだ!やっぱめっちゃカッコいい!」
二人がカウンターの中にいる修司の傍に寄り、カウンターに手を付いて身を乗り出していた。
二人の勢いに押されて、タジタジと後ろに下がっている修司の姿が目に入る。
「さぁさぁ、こっちに座ろう」
酔っ払いの俺が野口さんと田沢さんの腕を掴んで、テーブル席に行こうと促した。修司の視線を感じるが、酔っ払っているから全く気にならない。
「榊くん、今、彼女いるの?」
俺に腕を引かれているのに、その場に留まり田沢さんが訊いた。
「彼女いるから、修司。はい、諦めてこっちで飲もう」
はははっ!と笑いながら俺が答える。
「なぁんだ〜、残念〜!」
酔っ払い三人がテーブル席に座ると修司が水を持って来た。
「三人とも、随分と飲んでんじゃねぇか、もうやめとけ」
「すごい… 滅茶苦茶カッコいい… ねぇ、私達この人の元カノなんだよ… 信じられない… 」
神を拝むように手を合わせ、二人が修司に見惚れているが、修司の眉間の皺が凄い。
「そんな顔をしていたら、せっかくの色男が台無しだぞ!」
ここぞとばかりに修司に言ってやった。凄い目で俺を睨むが痛くも痒くもない。
いつの間にか俺は酔い潰れて寝てしまったようで、目を覚ますと野口さんと田沢さんは、修司と話す為にカウンター席に移っていた。
「ねぇ!私の事、好きで付き合ってた?」
「あ、私も聞きたい!私の事は?好きだったの!?」
二人して修司を問い詰めているように見えたが、修司は余裕の笑みを浮かべている。
「はい、具沢山のお味噌汁」
修司が二人に味噌汁を差し出した。
「何これ?すごい美味しそう〜」
「美味しそう、じゃない。美味しいから」
一発でやっつけてしまえる笑顔で応えている。
「これ食べたら帰りな」
優しい瞳で言われた二人は、揃って首をコクンと頷いた。目がハートになっているのが後ろからでも分かる。
俺はと言えば、抜けない酔いに身体が自由に動かない。これほど飲んだのは初めてで、自分の心も限界を感じ始めている気がした。
「ほら、お前も」
俺の前に味噌汁を置く。野口さんと田沢さんがいるからだろうか、いつもの様にキツくは言わない。
お椀を取ろうとしたが、力が入らない様子を黙って見ている修司の視線が鋭く刺さる、そんなの全然痛くない。
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