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酷い暑さは続き、猛暑日が連続日数の記録を更新したとニュースサイトのトップを飾っている。
修司のメールや連絡先を削除してからというもの、俺は仕事に没頭した。何も考えないで済むように、余計な事が頭の中を支配しないように、俺は必死に、とにかくがむしゃらに仕事をした。
修司を忘れる為に。
今夜は冷えたビールを買って家で飲もう、先に風呂に入ってその間は冷凍庫で更にキンキンに冷やすぞ、社に戻って報告書を作成だ、急ぎ足で前に進んだ。
会社のビルのエントランス前の大きな柱に、遠目でも分かる程のスタイルの良い男が寄り掛かり立っている。
修司だ。
胸がドクンッと打ったけれど、心は乱れなかった。
「慶人ぉ、遅ぇよ。暑いじゃん、日本のサラリーマン、皆んなよく生きてんな」
Tシャツの胸元をパタパタさせながら、背の高い修司が顎を上げ、視線だけを下ろして俺を見た。
「何をしているんだ」
呆れて、訊き方も淡々としてぞんざいになる。
「慶人の事、待ってたに決まってんじゃん」
湿りきって役に立ちそうもないハンカチで額の汗を拭いながら、淡然と修司を見た。
「お前さぁ、ほんっと!自分の事を好いている人間に対して疎すぎるよなっ!」
「!?」
何故、今になって尚も修司の説教を聞かなければならないのか、暑いから余計に不愉快で顔が歪んだ。
「お前の事、誰よりも愛しくて大切に思っている人間がいるって知ってる?」
何を言っているんだ、歪んだ顔で顰めた眉のまま修司を見つめた。
「ほんとにさぁ… お前ってさぁ… その鈍感さ… 国宝級だな」
「何をごちゃごちゃと言っているんだ。社に戻って報告書を作らなければならないから、失礼するぞ」
我ながら上出来だと思った。
修司をかわせた。こうして、修司を忘れていけば完璧だ。
少し満足気に身を翻しビルを正面にした。
「俺が… お前を… 慶人を愛しくて大切に、思ってんだよ」
え?
今、何て言った?
不覚にも振り向いてしまった。
「お前、疎過ぎ」
振り返ったまま、俺は固まってしまって動けない。
「全然、連絡取れねぇし… 」
修司は思いっきり口を尖らせている。
「そ、それは… 修司が、もう逢うのは終わりにしようと言ったんじゃないか」
「うん… 」
え?何で?
何でそんなに素直なんだ?
修司の俯いて項垂れた姿に、胸がドクンッと大きくひとつ打った。
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