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再会、甦る想い
「そうか、じゃあ、逢うのはもうこれで終わりにしようや」
おそらく扉に張り付いたのだろう、蝉の鳴き声がけたたましい。そのせいだ、修司の声は酷く遠くに聞こえた。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
─── 二年前
大学四年生の夏、一通のハガキが届いた。
「榊の店?」
普段なら気にも留めない、高校時代の部活の同窓会の知らせ。榊の店とはどういう事だろう、彼も大学へ進学している筈だった。
おそらくハガキは何処かへ置いたままにして忘れていたと思う、今までならば。
場所が“榊の店”という内容に騒つく胸を落ち着かせながら、QRコードを少し震える手で読み取り『参加』をタップした。
翌日、榊の店の詳細がメールで届く。
榊に会えるのか、胸が激しく高鳴った。
高校を卒業して三年余り、まだ三年、もう三年、どっちなのだろうと思いながら榊の店へと向かう。
詳細にある榊の店は、駅からの大通りを一本奥に入った道沿いに佇む。周りには住宅もある少し静かな場所にあった、明るい雰囲気のダイニングバー。
「ここだ」
店の前に立つと、一気に緊張した。深呼吸を何度もして気持ちを落ち着かせていると、後ろからいきなり背中を叩かれる。
「春名、久し振り!お前が来るなんて珍しいじゃん!」
懐かしい剣道部の仲間の顔と声に緊張が少し和らいだ。
「ああ… 久し振りだな」
「中に入ろうぜ」
「あ、ああ… 」
仲間が扉に手を掛けた。
ドキドキした。中に榊がいるのだと思ったら気を失いそうな位にドキドキした。
扉が開いた途端に「おーっ!」という歓声とガヤガヤとした喧騒に包まれ、一瞬気が遠くなりそうな時、榊修司が目に入る。
変わらない榊の姿がそこにあった。
長身でスタイルも顔も抜群の榊は高校時代、学校中の憧れ的存在で彼の周りだけ空気が違って見えた。仲間に囲まれ、常に皆の中心にいて愉快な話に花を咲かせる榊の周りには絶えず人が集まっていた。
目の前に置かれたグラスを手に、あの頃と変わらないそんな榊を、カウンターの一番端の離れた場所から静かに見つめた。
半円形のカウンターには七席、二人用と四人用のテーブル席が二つずつ。二十人弱の客が入れる店は決して小さい店には感じられない。カウンターの中は広く、厨房にもなっている。榊の店なのか、凄いな、そんな風に思いながら木を使ったインテリアに柔らかと感じ、明るめの照明が清潔感と朗らかさを感じさせ、感嘆しながら店内を眺めた。
「春名?」
榊が酒を手にして傍に寄ってくるのが分かり、店に入る前の緊張が戻る。
「ああ、榊、久し振りだな」
「剣道部の集まりだって言うから貸切予約受けたけど、春名も来るとは思わなかったよ」
ひとつも変わらない爽やかな笑顔と、人並外れた水も滴るいい男に、俺の胸の鼓動は激しくなり、一気にあの頃へと引き戻された。
「君の店、だって?」
大学へ進学した筈だった榊に訊く。
ふっと笑って、
「ん?ああ、雇われ店長なだけ」
「凄いな」
「そんなんじゃねーよ」
顔の前で手をぶんぶん振り笑う榊は、まるで違う世界に生きている人の様に見えて、あの頃と同じ、眩しく輝いていた。
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