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船岡山の頂に戻った老人は、娘と向かい合っていた。平伏した娘の肩に手を置き、老人は労るように話した。
「余の思いを果たすために、ようこなしてくれた。水神の竜に憑依すれども、生身の人の体に入り込むとは、大儀なことであったと思う」
「いえ、ご主人様のご無念に比べれば、何のことはございません」
「しかしながら、そなたの功に対し、報いをしなければならぬが、今の余にとって成すことは何も出来ぬ」
「ご主人様の成されることは、政を正し、世に安寧をもたらすことと考えまするに、報いなぞもってのほかにございます」
「左様か」
「然るに、この後は如何いたされますか」
「此度のことの余波を確かめるに、暫しの間、様子を伺うこととしたい」
仇怨の要の一つが果たせたことに、老人は一応の感得を覚えていた。然りながら、心底には渦巻くが如き拘りが残っていた。
爽やかな緑風が吹き渡る頂ではあるが、都の街並を見下ろす老人の眼差しには、滾るような怨念の焔を映していた。
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