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摂関家当主を死に至らしめたのは、かのお人の怨霊が蔓延っていたからであると言う祈祷をしていた僧の口から伝わった話は、大きく広がることも無くその内に忘れ去られた感があった。これでは仇怨を晴らすにほど遠く、摂関家当主が二歳で立太子させていた皇太子を、老人は夭逝に追い込んだ。それは摂関家当主が鬼籍に入ってから十四年後のことで、皇太子が二十一歳になっていた。
久方ぶりに船岡山の頂を訪ねた娘は、老人に話した。
「宮中では大騒ぎになっておりまして、あの宣命は焼却し、ご主人様を元の右大臣に復し、正二位を追贈することになりそうです」
「そうか。しかし、余の名籍を回復するつもりであろうが、死して後にした所で如何ともしがたい」
「なれど、ご主人様の怨念の恐ろしさを知らしめたことには、なろうかと存じます」
「そのようじゃが、まだ足りぬ」
その二年後には、皇太子の死去に伴い新たに立太子していた五歳の皇太子が、疱瘡で亡くなった。摂関家当主の娘と先に夭逝した皇太子との間に生まれた皇子であり、これで王と摂関家当主との血統が絶たれることになった。
このことで、その人に対しては慰霊から、祟りの恐怖へと変換していった。況して、取り残された王は、迫り来たる怨霊に震駭していた。
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